【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました

「ちょっと、どこに行くの!」

 
 叫ぶ母親にかまわず、私は廊下を全力疾走した。

 追いかけてくるマネージャーをなんとか振り切ってタクシーに乗り込む。

 運転手に「とにかく出して下さい」と告げると、タクシーはすぐさま走り出した。

 バックミラーごしに運転手と目が合う。
 
 目的地はどちらでしょうか、と聞かれるかと思いきや、彼は何も言わなかった。

 きっと、ボロボロ涙を流す私に、気を遣ってくれたのだろう。

 私は涙声になりながら目的地を告げた。
 
 行き先は首都圏近郊にある祖父母の家だ。

 急に訪ねたらびっくりされるかもしれない。
 けれど、無性に二人に会いたかった。
 
 女優でも、母親のアクセサリーでもない、ただの『孫』として扱われたかったのだ。

 しかし、いかんせん時期が悪かった。
 今はまさにゴールデンウィークの連休初日。

 タクシーはすぐさま渋滞にはまり、動けなくなってしまった。祖父母の家に行くにも何時間かかるやら。
< 12 / 277 >

この作品をシェア

pagetop