【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
「ちょっと、どこに行くの!」
叫ぶ母親にかまわず、私は廊下を全力疾走した。
追いかけてくるマネージャーをなんとか振り切ってタクシーに乗り込む。
運転手に「とにかく出して下さい」と告げると、タクシーはすぐさま走り出した。
バックミラーごしに運転手と目が合う。
目的地はどちらでしょうか、と聞かれるかと思いきや、彼は何も言わなかった。
きっと、ボロボロ涙を流す私に、気を遣ってくれたのだろう。
私は涙声になりながら目的地を告げた。
行き先は首都圏近郊にある祖父母の家だ。
急に訪ねたらびっくりされるかもしれない。
けれど、無性に二人に会いたかった。
女優でも、母親のアクセサリーでもない、ただの『孫』として扱われたかったのだ。
しかし、いかんせん時期が悪かった。
今はまさにゴールデンウィークの連休初日。
タクシーはすぐさま渋滞にはまり、動けなくなってしまった。祖父母の家に行くにも何時間かかるやら。