【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
「ええ、お母さんの言うとおり。この業界、仕事があるだけマシです。嫌なら降りて頂いて結構ですよ。正直、あなたの替わりはいくらでも居るんですから」

「待って下さい! うちの子、今ちょっと反抗期なんです。ほら、あなたもマネージャーさんに謝って!」

 母親に握られた手を、私は勢いよく振り払った。

 娘が他人に『替わりはいくらでも居る』と言われているのに、反論するどころか同調するなんて。

 
「……ママは、私の気持ちなんか、どうでもいいんだね」

「何を言ってるの? ママは、あなたが一番大事よ」

「嘘つかなくていいよ。ママが大事なのは『女優』としての私でしょ? 他人に『うちの子すごいでしょう?』って自慢できる娘しか、愛せないんだよね?」

「そんなこと……」

「じゃあ聞くけどさ。この仕事やめても、私を愛してるって本気で言える?」

 

 母は中途半端に口を開けて、一瞬押し黙った。

 ほら、やっぱり即答出来ないじゃん。

 仮にも女優の母親なんだから、愛してるって、嘘くらい上手について欲しかった。
 
 私はカバンをひっつかむと、出口に向かって走る。
 
 この後もスケジュールが詰まっているけど、そんなの知ったことじゃない。

 だって、もうこの仕事は辞めるから。
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