僕の欲しい君の薬指

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嬉しさの余り、気合いを入れ過ぎたかもしれない。テラスのベンチに腰掛けた私は、風で翻る裾を眺めてそう思った。白くてふんわりとした生地に蒼いネモフィラの花柄が至る所に舞っているこのワンピースは一目惚れして購入した一着でとてもお気に入りだけれど、着た回数はまだ片手で収まる程度だ。


普段は下ろしてばかりの髪も、ネットでアレンジ方法を検索して不器用な私なりにセットしてみた。念には念をと玄関の全身鏡でくるくると回りながら最終確認をして家を出たのは良いものの、ただのお友達とのランチでこんなに気合いを入れる物なのかと突然不安に駆られたせいで午前の授業の殆どは頭に入らなかった。



相変わらず人のいない木陰のベンチ。携帯で時間を確認するのも何回目か分からない。さっきから全然時間が進んでいない様な気がする一方で、一分また一分と数字が増えるに連れ心音が大きくなっていく。



「つーくよ」



枝揺れて青葉同士が擦れる音に包まれる中、背後から知っている声に名前を呼ばれて肩が微かね跳ねた。



「悪ぃ、待った?」



ベルガモットの香りが濃くなった刹那、後ろから私の顔を覗き込んで申し訳なさそうに眉を八の字に下げたのは、本日もお変わりなく美しい榛名さんだった。


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