僕の欲しい君の薬指
これ以上彼に涙を浮かべさせたくはない。真っ先に頭と心に浮いた言葉がそれだった。
手を伸ばして、落ちるか落ちないかの瀬戸際で風に吹かれて揺れている相手の涙を指先でそっと掬う。
「ん…さい。ごめん、なさい」
「許さない。今日という今日は許さない」
「ごめんね、天糸君」
「身を挺して誰かを庇うのはやめて。僕よりも他の人間を優先するのはやめて」
「……っごめんね」
自然に謝罪の言葉が口を突いていた。漠然とした不安が黒い霧の様に広がって私の胸を覆っていく。視界が捕らえる彼の貌が余りにも儚くて、そのまま湿度を孕んだ風に吹かれて散ってしまいそうな気がした。
「ちょっと待て天」
見つめ合っていた私達を割いたのは、榛名さんの低い声だった。