僕の欲しい君の薬指
本来ならば、天糸君もこんなマンションに住める経済力を有しているのだろう。私と彼の住所があるマンションは、どう頑張ってもこの空間の足許にも及ばない。
私とあの子では住む世界が違う。その現実を改めて強く思い知った。天糸君の為を想うのならば、私は絶対に自覚した恋心を胸の内に仕舞うべきだ。あの子の将来を応援しているのなら、年上である私がしっかり線を引かなくちゃいけないのだ。
好きだからこそ距離を置かなければならない。大好きだからこそ彼を突き放さなくてはならない。愛しているからこそあの子からの情愛を拒絶しなければならない。
自らに現実を言い聞かせば言い聞かせる程に、胸の奥が酷く痛む。張り裂けてぐしゃぐしゃに壊れてしまいそうなまでに苦しくなる。
「荷解きする前に一旦休めば?…と云うより、俺の珈琲タイムに付き合って」
顔を顰めてしまうまでの胸を貫く苦痛を忘れさせたのは、隣で柔らかく微笑んでくれた榛名さんの一言だった。
L字型の大きなソファにちょこんと腰掛ける。ピンと伸びる背筋は、次元の違う環境に飛び込んでしまった事への緊張のせいだろう。
窓の外は依然として雲一つない夏晴れだった。毎日多忙なはずなのに、塵一つ落ちていない清潔なリビングに素直に感心してしまう。
家政婦さんでも雇っているのかな。ソファの横にある大理石で出来ていると思われるテーブルも一切埃が落ちていない…って、あれ。膝の高さにあるテーブルへ落とされた私の視線は、そこに乱雑に置かれていた雑誌に留まった。
「これってもしかして…」
それは、先月号に天糸君が表紙を飾っていた女性ファッション誌だった。