僕の欲しい君の薬指

。。。25



目の前を覆う暗闇の正体をすぐに突き止める事ができなくて肩が跳ねる。やがて落ちてきた声によって、天糸君が私に目隠しをしたのだと知った。



「馴れ馴れしく月弓ちゃんの名前呼ぶな。ていうか、月弓ちゃんに変な事吹き込まないでよ」


“そうやって僕の月弓ちゃんを洗脳しないでよ”



暗闇の中で私は眉を顰めた。洗脳?榛名さんは、私を洗脳しているのだろうか。そう考えた所で答えがすぐに出るはずもない。

天糸君の酷く甘い香りに刺激されて、その香りが鼻の奥から抜けていく度に不安定に乱れていた情緒が安定する気がした。



「あ?何言ってんだよ、月弓に変な事吹き込んでるのはお前の方だろ」

「ふふっ、何の話?」

「白々しいな。お前、この事が綺夏に知られたらどうなるか分かって…「次のシングル。僕がセンターをちゃんと務めるって綺夏に言っておいて。わざわざ歌詞と楽譜届けてくれてありがとう珠々。でも、もう二度と来なくて良いからね」」



榛名さんの言葉を妨げた彼の声と共に、ガチャリと扉が開く音を鼓膜が拾った。彼が何歩か歩いたのを振動で感じる。やがて彼の濃縮された色っぽい香りが鼻腔を刺激した。



「月弓は渡さないからな」

「冗談やめなよ」



すぐ傍にあったはずの榛名さんの声が遠ざかっていた。榛名さんの投げた言葉に、条件反射で心臓が鳴る。そんな榛名さんの台詞を一蹴したのは、他の誰でもない天糸君だった。


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