僕の欲しい君の薬指
「大体ね、花瓶の水替えをサボっていた事を僕に隠せていない時点で、珠々が僕に秘密なんて作れるはずがないよ」
そっと唇に三日月を湛えた妃良さんの発言に唖然としたのは私の方で、珠々さんはと云うと「やっぱバレてたのか…」と漏らして銀髪を掻き乱した。
余裕がない珠々さんは珍しい。苦虫を嚙み潰した様な顔をして、長い溜め息を吐いた珠々さんはすっかり観念したのか、私がここに居候する事になった顛末を話し始めた。
「で、月弓が困ってたから俺がこの家に住めば良くね?って提案してこうなった」
「ふーん、月弓ちゃんは天の従姉だったんだね」
ざっくりとした説明だったにも関わらず、しっかり要点を押さえて綺麗に纏まっている珠々さんの話し方が、珠々さんの頭の良さを物語っている。
私だったらテンパってこんなに上手に話せなかっただろうし、支離滅裂になってたはずだ。
殆どの事情を話し終えた彼がノートが広がったままのテーブルに項垂れた刹那、妃良さんの双眸が私を射抜く。受け取った問い掛けに首肯すれば、「道理で異常に綺麗な訳ね、納得」そんな言葉が落とされた。
「天が頑なにこのマンションに引っ越さない理由もこれで分かった」
「え?」
「だって天が愛している人って、月弓ちゃんでしょう?」
あっさりと私の罪悪感の一つを暴いた妃良さんに心臓が凍り付いてしまいそうだった。