僕の欲しい君の薬指


文字通り天糸君と身体を繋ぐ行為をしたあの日から、今まで以上に天糸君が私にべったりくっ付く様になった。

隙あらば私の身体を抱き寄せて放さないし、トイレ以外は何処へでもついて回った。一番の大きな変化を挙げるとするならば、天糸君がいつも糖度の高い表情を頻《しき》りに浮かべる事だろう。



朝起きて、翡翠色の瞳と眼が合った時も。

普通に食事をしている時も。

髪を乾かしている時も。

歯磨きをしている時も。



彼はふにゃりと効果音が付きそうな笑みを湛えて「可愛い月弓ちゃん、大好き」と愛の告白を何度もするのだ。そんな彼に対し、とうとう自覚してしまった恋心は膨れ上がる一方で、心臓が幾つあっても足りそうにない。


情事を終えて天糸君の寝室で一緒に朝を迎えた時に、彼のあどけない美しい寝貌を暫く見つめた。



「…本当に、一線を超えちゃったんだ」



ぽつりと声に出して漸く実感が湧いた。普通の何の柵もない男女の関係ならば、嬉しくて舞い上がってしまう所だと思う。幸せを実感して、それを噛み締める所だと思う。


だけど私に重くのしかかったのは、人気アイドルグループApisのセンターである羽生 天もとい、涼海 天糸と人には口外できない関係になってしまったと云う大きい責任感と、自分の両親や彼の両親を裏切ってしまったと云う背徳感。そして、どうして私は理性を保てなかったのだろうと云う罪悪感だった。


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