僕の欲しい君の薬指



複雑に幾重もの感情が交差して、前よりも格段に息苦しくなった。


素直に喜べない自分が可愛くないなと思ったし、彼に「私も好き」と伝えられない私は卑怯だとも思った。


唯一の救いは、Apisの活動で彼が多忙を極めて家を空ける機会が多くなった事だろう。独りで過ごす空間は広くて寂しいけれど、今後を考えるにはありがたい時間だった。


私なりに本当に色々と考えた。だけどやはり、恋路としては幸せではない結論にばかり辿り着く。だって、どう考えても私は、天糸君と付き合える様な人間ではないのだ。



もしも自分の気持ちを伝えたとして、両想いを確かめ合えたとして、交際できたとして……その後は、どうするのだろうか。

両親に知られたら憤慨される事だろう。天糸君のご両親には泣かれてしまうかもしれない。憎まれて恨まれる可能性だって十分にある。



「遂に間違えちゃったな」



力ない声によって放たれた独り言が一瞬で風に掻き消される。膝の上に広がっている彩り豊かなお弁当から蓮根を摘まんで口に運ぶ。舌で広がる味は、今日も今日とて優しくてとても美味しい。



それが余計に、私の心を痛く締め付けた。


< 185 / 305 >

この作品をシェア

pagetop