僕の欲しい君の薬指
この人に犯されてしまったとしても、私に文句を言う権限はない。あれだけ余裕に満ちていた珠々さんをこんな風にしてしまったのは、他の誰でもない私なのだから。
「我慢できねぇ」
「…っっ」
私の首筋に牙が突き立てられた。痛みに顔を顰めてしまいそうになったのも束の間、今度はそこを甘やかす様に舌が舐めて慰める。それの繰り返しだった。首筋から鎖骨、鎖骨から胸の膨らみへと愛撫が這う様に下りて、下着から露出している胸へ珠々さんの唇が重ねられる。
震えがより一層、激しくなった。珠々さんの手が、私の上半身を唯一隠している下着を捕らえた。剥ぎ取られてしまうのだと覚った私は、その瞬間を見届ける勇気がなくてギュッと強く目を瞑った。
しかしながら、直に胸を触られる感覚は一向に訪れなかった。その代わりと云わんばかりに「クッソ」珠々さんの弱々しい声が鼓膜を掠めた。
恐る恐る持ち上げた瞼。開けた視界に映ったのは、苦渋の表情を浮かべた珠々さんが舌打ちを零す姿だった。
「……できる訳ない」
「じゅ…じゅ…さん?」
「こんなに怯えて恐がってんのに、そんな月弓を俺は抱けない」
唇を強く噛み締めている相手が、まるで行き場を失った情欲を吐き出すかの様にソファの背凭れを殴った。それに対しピクリと肩が無意識に跳ねる。そんな私の様子を見た珠々さんはくしゃりと乱れた髪を更に掻き乱して、私の頬を撫でた。