僕の欲しい君の薬指
珠々さんの身体が震えている。とてもとても、震えている。こんなに極限まで追い詰められているのに、自分よりも私を優先してくれたこの人の優しさと温かさが胸に沁みてどうしようもなく申し訳なくなった。
頬から落ちる涙を必死に自分の手の甲で拭って「ごめんなさい。ごめんなさい、珠々さん。気持ちに応えられなくてごめんなさい」と漸く心の声を紡ぎ出す。
「ふはっ、何で月弓が謝んの。謝るのはどう見たって俺の方だろ」
「違います。私が…私が珠々さんの気持ちに気付かずに甘えたのが悪いんです」
「そんな事ねぇよ」
「そんな事あります」
「変な所で頑固だな」
顔を上げた相手がどんな表情を浮かべているのかは、乱れた銀髪に覆われていて判然としない。ただ、しっかりと見えた口許はほんの少しだけ緩んでいた。
「それじゃあ、おあいこな」
さっきまで私が着ていたトップスを床から拾い上げて、私の傍にそれを戻した珠々さんが立ち上り、自分のシャツに袖を通す。
「そんで、月弓はちゃんと自分の気持ちに向き合う気になった?」
「え?」
「天…天糸の事、好きなんだろ」
突然突かれた図星に大きく動揺して口をパクパクさせていると、「何、まさかバレてないとでも思ってたのか?」そう放った相手が、クスクスと笑いながら肩を揺らす。
は、恥ずかしい。頬が熱い。顔から火を噴いてしまいそうだ。急速に熱が集中する頬を冷ます様に両手で覆ったけれど、掌が熱くなるだけだった。