僕の欲しい君の薬指


ち、近い。非常に近い。



お人形さんの如く整っている彼の麗しい顔に、緊張が走る。優艶に口角を持ち上げて迫る相手と、これ以上距離を埋めると動悸が余計に加速しそうで自然と後退りする身体。だけどもすぐに私の背中は閉ざされた扉にぴたりと密着した。


それは、逃げ場を失った合図だった。



「ふふっ、そんなに警戒しなくても取って食おうなんて思ってないよ」

「近いです…」

「うん、近くで月弓ちゃんのお顔をよーく見たいの」

「何の得もしないですよ」

「そう?僕からすれば最高に美しい顔立ちだよ」

「…っっ」

「頬が熟れた桃みたいになってる。可愛い」



火照る頬に相手の冷たい指が触れてひんやりとする。徐々に荒ぶる鼓動にどうか落ち着いてと宥める言葉を掛けるけど残念ながら効果はない。私の心中なんて露知らず、綺夏さんは私の髪に指を絡めて「髪質は天とよく似ているね、絹糸みたいに綺麗」そう吐いて目を細める。



「モデルや女優になっちゃえば良いのに…つくづく勿体ない。ああでも、月弓ちゃんが人目に触れる仕事をするなんて、そもそも天が許さないね」


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