僕の欲しい君の薬指
上品な相手の笑い声が廊下を通る。心臓の高鳴りは騒がしくなる一方だ。綺夏さんの距離感に戸惑って視線を宙に彷徨わせていると、高貴な微笑を絶やさない彼が開口した。
「僕のいない間に珠々と色々あったみたいだね」
「え」
「珠々は何も言わなかったけど、ここ数年ずっと生活を共にしてる僕の目は誤魔化せないの」
「あ、あのそれは…「うーーーん、月弓ちゃんの様子から察するに珠々が途中で理性を保って、最悪の結果にはならなかったってところかな?」」
どうしてそこまで分かるのだろうか。尽く真実を突く相手の台詞に、目を見開いた。小首を横に折って笑みを咲かせる綺夏さんが、私の首筋を撫でて鎖骨をなぞる。そして次の瞬間には、相手の口付けが私の頬に落ちていた。
「明日もし外に出る用があるなら、鎖骨が隠れる襟のトップスを着なくちゃ駄目だよ月弓ちゃん。それと、あんまり油断しちゃうのはいけないよ」
“僕に食べられちゃうかもしれないからね”
私の鎖骨にもう一度指先を滑らせた彼が、踵を返して放心状態の私から離れていく。自室の扉の前で足を止めて私の方へ振り返った綺夏さんは「それじゃあおやすみ」と放ってヒラヒラと手を泳がせてから部屋に入ってしまった。