僕の欲しい君の薬指



引っ越しの日取りを決定するよりも先に汗だくで駆け付けたApisのマネージャーさんに連行され、天糸君は病院に強制送還されてしまった。本人は最後の最後まで「月弓ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だ」と可愛い駄々を捏ねていたけれど、綺夏さんの無言の圧力にあっさりと彼が敗北したのは言うまでもないだろう。


天糸君との交際に関して、マネージャーさんからは猛烈な反対を喰らう覚悟でいたのにマネージャーさんは反対するどころか、涙ながらに私達の交際を喜んでくれた。



「貴方が居てくれれば天がお利口さんで助かります。どうか一生、天の傍に居て下さい。その為ならどんな協力も惜しみません」



寧ろ私達の交際を後押ししてくれる気満々と云った様子のマネージャーさんの心底安堵した表情からは、あの子の問題児っぷりが痛く伝わって来て、初対面にも関わらず私は相手に心から同情した。


あの子がアイドル業に対して真剣に誠実に打ち込んでいる様に見えた私の目は、どうやら節穴だったらしい。



「あ、そう云えば月弓さん。病室を出る前に天からこれを預かったのでお渡ししますね」

「え?これって…鍵ですか?」

「はい」

「あの、この鍵に見覚えも心当たりもないんですが…」

「綺夏と珠々が住んでいるこの角部屋の隣に、同じApisのメンバーである虎と乙兎が住んでいるのはご存知ですか?」

「はい、それは聞きました」

「虎と乙兎が住んでいる隣の部屋。この鍵はその部屋の物でして、天と月弓さんがこれから住む家になります」

「ぇえ!?」



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