僕の欲しい君の薬指
美味しいはずのブランチの時間は愉しくなかった。折角大学を休んだのに心も身体も全然休めそうにない。カシャっと機械音が沈黙を割く。咄嗟に音の出処を探す視線が留まったのは、こちらにレンズが向けられた携帯端末。
それを操作していると思われる彼は、端末越しに貌を覗かせて無邪気に双眸を輝かせた。
「脅えた月弓ちゃんも可愛いよ。僕の宝物がまた増えちゃった」
端末が裏返されて、今度は画面が私に向けられる。そこに写っていたのは、泣きそうになっているみっともない私の姿。
やめて…やめてよ。そんな写真なんて撮らないでよ。早く削除してよ。胸中で渦巻くそんな要望すら相手に云う勇気のない私は唇を噛む事しかできない。
「あ、忘れる所だった。一応保険として忠告しておくね」
「何を?」
躊躇なく滑らかに動く彼の指を傍観していると、写真フォルダが閉じられて写真投稿をするSNSアプリが開かれた。『羽生 天』と記載されている名前の隣にはSNSの公式マークが付いている。紛れもなくこの子が有名人である証だった。
フォロー数は一桁にも関わらず、フォロワー数は百万人と表示されている。途方もない数だ。そのSNSの投稿の下書きを彼が開いた次の瞬間、私は吃驚して絶句した。