その涙が、やさしい雨に変わるまで
「すみません。定時で終われなくて、お待たせしました」
タブレット端末から視線を上げて、あらためて菱刈は三琴を認める。受付嬢の制服を脱いだ今の三琴の姿は、菱刈が知っている秘書の松田であった。
「松田さん、こちらこそ時間外にお呼び立てして申し訳ありません。受付業務って時間通りに終わるものだと思っていたのですが、違うんですね」
「たいていは時間通りなのですが、ごくたまにそうでないときがあります。今日はタイミング悪く、そのパターンに当たってしまいました」
と、菱刈とはごくごく普通の部署の違う社員の会話ではじまった。
「それで、確認したいこととは何でしょうか?」
このあと脩也のメンバーとの飲み会が入っている。三琴は、簡単にアイスコーヒーをオーダーするだけにとどめた。
「はい。こちらの書面なのですが……」
と菱刈はタブレットを片付けて、新しくブリーフケースからライトグレーの封筒を出した。
封筒には『KUROSAWA EUROPA』のロゴがあり、自社のものだった。
「これは?」
中を検める前に、三琴は尋ねた。
「はい。副社長と一緒に進めていた案件です。まだまだ0号案でもあれば、協議に乗る前のものです」
さらりと菱刈は、極秘も極秘の新規事業の種だと口にした。
瑞樹は副社長ゆえにたくさんの案件を抱えている。現在進行中だけでなく商品リリース後のものもあれば、企画段階のものもある。
いま提示されたのは、初期段階の企画のひとつ。ずっと彼のそばで秘書をしていた三琴にすればいくつも目にしていて、特に珍しいものでも何でもない。
タブレット端末から視線を上げて、あらためて菱刈は三琴を認める。受付嬢の制服を脱いだ今の三琴の姿は、菱刈が知っている秘書の松田であった。
「松田さん、こちらこそ時間外にお呼び立てして申し訳ありません。受付業務って時間通りに終わるものだと思っていたのですが、違うんですね」
「たいていは時間通りなのですが、ごくたまにそうでないときがあります。今日はタイミング悪く、そのパターンに当たってしまいました」
と、菱刈とはごくごく普通の部署の違う社員の会話ではじまった。
「それで、確認したいこととは何でしょうか?」
このあと脩也のメンバーとの飲み会が入っている。三琴は、簡単にアイスコーヒーをオーダーするだけにとどめた。
「はい。こちらの書面なのですが……」
と菱刈はタブレットを片付けて、新しくブリーフケースからライトグレーの封筒を出した。
封筒には『KUROSAWA EUROPA』のロゴがあり、自社のものだった。
「これは?」
中を検める前に、三琴は尋ねた。
「はい。副社長と一緒に進めていた案件です。まだまだ0号案でもあれば、協議に乗る前のものです」
さらりと菱刈は、極秘も極秘の新規事業の種だと口にした。
瑞樹は副社長ゆえにたくさんの案件を抱えている。現在進行中だけでなく商品リリース後のものもあれば、企画段階のものもある。
いま提示されたのは、初期段階の企画のひとつ。ずっと彼のそばで秘書をしていた三琴にすればいくつも目にしていて、特に珍しいものでも何でもない。