その涙が、やさしい雨に変わるまで
†††
「松田さん、飲んでる?」
酔った春奈が三琴の元までやってきた。彼女ははじめこそ三琴の隣にいたが、いつの間にか移動していた。いろいろ周回してから元の場所へ、ご機嫌伺いに戻ってきたのだった。
その春奈の声で、はっと思考の海から三琴は引き上げられた。
「はい、いただいてます。とても美味しいです」
『真さ』での打ち上げは、まだまだ絶好調。時刻は九時を回ったところであるが、フリーランスの彼らに時間の概念はあっても、曖昧だ。
そして、また新しい飲み物と料理が追加されている。
オーダーストップはどうなっているのかなと思ったら、店は貸し切りになっていた。今頃、三琴は知ったのだった。
貸し切りとわかったが、勤め人の三琴としてはそろそろお暇したいと思っていた。
盛り上がるメンバーには悪いが、三琴は明日も通常勤務である。二日酔いの姿で、受付カウンターに座るわけにはいかない。
三琴は〆のメニューを選ぼうと、メニュー表に手を伸ばした。
「ちょっと順番が変わっちゃたけど、松田さん、こ・れ! どぞー」
と春奈が、メニュー表とともに白い大判の封筒を差し出した。
「?」
今日は封筒をたくさんもらう日だなと思いながら、三琴は受け取る。
菱刈からもらった封筒と違って、春名のものは薄い。けれど、硬い。
ニコニコ顔で春奈が隣に控えている。「今すぐ、みてちょうだい」ということなのだろう。素直に三琴は封筒をのぞき込んだ。
そこにあったのは、複数枚の写真。バラ園にて春奈が撮った三琴の写真である。
(あ、そうだった!)
(現像した写真を受け取ってほしいって、脩也さんにいわれていたんだった)
(なんだか、こういうの……照れくさいわね)
プロに写真を撮ってもらうのなんて成人式以来だと思いながら、丁寧に取り出す。
一番大きなフォトは、ガゼボの中から天を仰いでつるバラをみる三琴の全身ショットだった。