その涙が、やさしい雨に変わるまで
「そういえば、この間、総務部長から確認があった。今月下旬に退職するんだって?」
丁寧に扉を閉めて、瑞樹はきちんと鍵をかける。三琴に振り返り、退職日のことに触れた。
「はい。有給消化などのご配慮もいただくことができました。副社長にはいろいろお世話になり、最後までありがとうございました」
ふたりきりの社員用車寄せで、話題となったのは三琴の退職のことである。
とっさに今ここで退職時の挨拶を済ますことができると気づき、三琴は無難に先を続けたのであった。
「有給の数をみて、松田さんのいう”業務内容が自分の能力を超えてしまった”というのを、あらためて認識したよ。確かにあの消化率では、燃え尽き症候群になってしまっても仕方がない。優秀な社員に去られてはじめて、こちらの配慮が足りなかったとわかるなんて、滑稽だな。いい気付きになった」
やや自嘲気味に瑞樹はいう。総務部長が提出した三琴の辞職願と関連データを、彼は細かいところまで目を通していた。
有休をとっていなかったのは、業務が忙しくて取れなかったから。
それは、「多忙であること」は「瑞樹と一緒に過ごす時間がそれだけ増える」ということになる。業務だけど、私利が少し、いやかなり混ざっていた。しかし恋人でない今は、ただの労働過多という記録でしかない。
恋人同士であったときに気にもしなかった有給休暇消化数が、社の幹部と一従業員となった今は労働倫理が前面に出てきていた。有給消化が、立場が変わることでこうも捉え方が違う。
またひとつ、瑞樹との距離を感じてしまう事項を見つけて、三琴の心が冷えていく。雨音がそれを助長した。
丁寧に扉を閉めて、瑞樹はきちんと鍵をかける。三琴に振り返り、退職日のことに触れた。
「はい。有給消化などのご配慮もいただくことができました。副社長にはいろいろお世話になり、最後までありがとうございました」
ふたりきりの社員用車寄せで、話題となったのは三琴の退職のことである。
とっさに今ここで退職時の挨拶を済ますことができると気づき、三琴は無難に先を続けたのであった。
「有給の数をみて、松田さんのいう”業務内容が自分の能力を超えてしまった”というのを、あらためて認識したよ。確かにあの消化率では、燃え尽き症候群になってしまっても仕方がない。優秀な社員に去られてはじめて、こちらの配慮が足りなかったとわかるなんて、滑稽だな。いい気付きになった」
やや自嘲気味に瑞樹はいう。総務部長が提出した三琴の辞職願と関連データを、彼は細かいところまで目を通していた。
有休をとっていなかったのは、業務が忙しくて取れなかったから。
それは、「多忙であること」は「瑞樹と一緒に過ごす時間がそれだけ増える」ということになる。業務だけど、私利が少し、いやかなり混ざっていた。しかし恋人でない今は、ただの労働過多という記録でしかない。
恋人同士であったときに気にもしなかった有給休暇消化数が、社の幹部と一従業員となった今は労働倫理が前面に出てきていた。有給消化が、立場が変わることでこうも捉え方が違う。
またひとつ、瑞樹との距離を感じてしまう事項を見つけて、三琴の心が冷えていく。雨音がそれを助長した。