その涙が、やさしい雨に変わるまで
 テレビから賑やかな笑い声が流れてくる。そんな気分じゃないわよと、三琴は深呼吸とは違う深いため息をつく。
 いくら理性が正しいと告げても感情が納得しない。昼間の備品庫での邂逅と同じで、迷う三琴がいる。

(ああ、やだやだ!)
(いい、三琴。今すぐに、結論を出さなくてもいいの! キャンセルの連絡だって、不要といっているんだから!)
(そうそう、今はもっと建設的なことを考えよう)

 過去ばかりに時間を割いているわけにはいかない。
 なかなかそんな気分になれないと三琴は先延ばしていたが、退職日は決まった。もう就活は待ってくれない。再就職までの一時的な生活費だって、余裕たっぷりというわけではない。
 伝手なし、コネなしの三琴が就活をはじめるとすれば、まずは転職サイトへの登録だ。

 メモ書きを元通り名刺入れに戻す。そのまま夕飯の片づけをして、やっとサイト登録をしようとタブレットを取り出した。
 ところがどうしたことだろう、いざ三琴が転職活動に取り掛かったのに、タブレットの充電具合がよろしくない。

(どうして、こう……間合いが悪いというか、ついていないというか)
(えーっと、コード、コード)

 一度座った椅子から立ちあがり、寝室に置きっぱなしにしている電源ケーブルを取りにいく。
 ついでにテレビを消した。ブンと小さな機械音を立てて無言になる。隣の寝室へいけば、窓越しに雨音が静かに響いていた。

(雨、まだやんでないんだ)
(洗濯のサイクルが狂いそうだな)
(あ、これもあったんだった!)

 電源ケーブルを取り、部屋を出ようとしたら『これ』が目に入ってしまった。あえて放置したおいたふたつの封筒を、三琴は見つけてしまったのである。

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