その涙が、やさしい雨に変わるまで
 新事業は企業相手のビジネスで、その業種も現在の『黒澤グループ』が扱うものと近すぎず遠すぎずだ。『黒澤グループ』にすれば、取り扱い部門拡大ともいえる。
 
――その企画書は松田さんにお渡しします。僕個人としては日本本社とか黒澤くんとかと関係なく、潰してしまうにはもったいない案件だと思います。黒澤くんがどう考えているのかはわかりませんが、彼が実行しないのなら僕が責任者となって動いてもいい。確実にイケると信じていますので。

 菱刈はとても乗り気で、瑞樹が下りるのなら自分が実行したいといった。
 確かに今の『黒澤グループ』には、当たりの自社商品やサービスが複数あり海外展開もしている。増収増益を報告して、今年の株主総会は問題なく終わった。まさに絶好調だ。

(余力のある今のうちに、次の稼ぎ口を探すのは当然よね~)
(そういう意味で、瑞樹さん、着手したんだろうな)
(あ、そういえば菱刈さん、次期社長のことをいろいろいっていたな)

 次期社長は現副社長の瑞樹が第一候補だ。一応、第一候補となっているが、実質的には瑞樹で決まっている。実績といい、人柄といい、さらに創業家一族の次男である瑞樹にケチをつける社員はいない。

 現在の社長は、小島という四十半ばの男性である。新卒採用されてからずっと黒澤グループの本流で、実績を積んできた堅実な社員である。創業家一族とはコネのない社員であったが、創業家に忠実で義理堅い。瑞樹と比べると華やかさには欠けるが、小島は正しく実力が評価されて社長に就任していた。
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