その涙が、やさしい雨に変わるまで
この新規案件は幹部にオープンにされていなかった。瑞樹が菱刈とふたりで極秘に進めていたのであれば、当然、議事録なんか残っていない。
三琴は副社長室でふたりが歓談する姿を知っているし、定例ミーティングにも同席していた。だけど、ふたりだけの作戦会議には立ち会っていない。
こんな状況で、三琴が企画の存在を知っているほうがおかしい。瑞樹の欠けた記憶の補完でも、三琴の知らないことだからフォローができるわけがない。
そうしてこれは、瑞樹の記憶から消されていた。端からなかったものとして二年もの間、放置されていたのだった。
――黒澤くん、いろいろとこちらへ質問してきては熱心に企画を練っていたのに、しばらくコンタクトがないなと思ったら、それきりです。今日の会議でも、僕の顔をみたら思い出すかなと期待したけど、全然だった。
再びこの言葉が、耳に甦る。
瑞樹からそっぽを向かれた日とその理由、さらにその後の経緯を知れば、菱刈の姿が自分と重なる。『僕の顔をみたら思い出すかなと期待したけど、全然だった』なんて、まさにそれ。
見舞いにいった先のベッドサイドで『どちら様ですか?』と他人行儀で尋ねられた三琴には、ミーティングで瑞樹から素知らぬ顔をされた菱刈の気持ちが痛いほどわかるのであった。
三琴は副社長室でふたりが歓談する姿を知っているし、定例ミーティングにも同席していた。だけど、ふたりだけの作戦会議には立ち会っていない。
こんな状況で、三琴が企画の存在を知っているほうがおかしい。瑞樹の欠けた記憶の補完でも、三琴の知らないことだからフォローができるわけがない。
そうしてこれは、瑞樹の記憶から消されていた。端からなかったものとして二年もの間、放置されていたのだった。
――黒澤くん、いろいろとこちらへ質問してきては熱心に企画を練っていたのに、しばらくコンタクトがないなと思ったら、それきりです。今日の会議でも、僕の顔をみたら思い出すかなと期待したけど、全然だった。
再びこの言葉が、耳に甦る。
瑞樹からそっぽを向かれた日とその理由、さらにその後の経緯を知れば、菱刈の姿が自分と重なる。『僕の顔をみたら思い出すかなと期待したけど、全然だった』なんて、まさにそれ。
見舞いにいった先のベッドサイドで『どちら様ですか?』と他人行儀で尋ねられた三琴には、ミーティングで瑞樹から素知らぬ顔をされた菱刈の気持ちが痛いほどわかるのであった。