その涙が、やさしい雨に変わるまで
――他にもいろいろあるのですが、これについては僕と黒澤くんと松田さんとの間だけのこととして、EUに戻る前に絶対に話さなければと思ったのです。

 宙ぶらりんになった企画を告白されて、菱刈が期待するのは懸案の復活だと三琴は思っていた。
 だけど『これは僕と黒澤くんと松田さんとの間だけのこと』というのが、気になる。議題にのせたいだけなら、企画を書き直して再提案すれば済むことなのだ。とても有望なものでヨーロッパのエースが是非ともやりたいといっているのなら、きっと取り上げられる。三琴の口添えなんて必要ない。

(なにか、見落としていることがあるのかしら?)

 菱刈とすごく親しいというわけではない三琴には、見当がつかない。

――その企画書には、三人の名前が挙がっています。発案者の黒澤くんと、黒澤くんの現地実働部隊の僕と、将来の現地スタッフ候補の松田さんという三人です。これをみて、僕はてっきり黒澤くんがあなたを連れてヨーロッパへくるのだと思っていたのです。ところが、あなたは会社を辞めるというから、もうどうなっているんだと。

(怪しいとすれば、ここだろうな)
(でも日本本部の秘書が現地スタッフになるなんて、変な人事異動よね。今までにそんな事例、あったかしら?)
(瑞樹さんがヨーロッパへくるって菱刈さんはいったけど、それはないと思う。瑞樹さんが社長就任を拒否して渡欧するなんて、ありえないから)

「…………」

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