その涙が、やさしい雨に変わるまで
 ふと三琴は、都合のいいことを思いついた。
 もしこの菱刈の企画が採用されて新事業がスタートするとして、これを退任する小島社長に任せるというのは、どうだろう?
 日本本部社長からヨーロッパ現地CEOへの異動は『黒澤グループ』の観点からだと降格になるが、傍からみればそこまでではないかもしれない。

――黒澤くん、小島社長のことをとても気にしています。ここまで自社を発展させたのは、小島社長の手腕に間違いない。
――自分が社長になることで、規定では社長は会長となって一線を退くことになりますが、これをみてほかの社員はどう思うだろう?
――社長本人もまだまだやりたいことがあるかもしれない、本当にそれでいいのか? なんて、こぼしていました。

 この瑞樹の言葉を鑑みれば、勇退する小島社長に新たな活躍の場を作ろうとしていたのではないだろうか? 同時にヨーロッパ事業部の強化にもなると、瑞樹は考えたのかもしれない。
 だとしたら、菱刈のこの新企画を埋もれさせるわけにはいかない。
 単に新規事業創成ではなく幹部人事をも巻き込んだ『黒澤グループ』再構築案と考えれば、瑞樹が作りたい未来の『黒澤グループ』のスタートになる案件と考えれば、腹心の部下である菱刈が三琴にコンタクトしてきた理由が説明できる。

「…………」

(あーでも、どうしよう?)
(もう辞めるっていうのに、こんな重たい案件、勘弁してよ~)

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