その涙が、やさしい雨に変わるまで
 ***

 指定された日曜日は、梅雨らしい曇りの空である。上空を覆う雲の色が、いまにも降り出しそうな灰色だ。それを認めて、三琴は傘を用意した。

 待ち合わせ場所のデルリーン・リッツ&コートヤードは、黒澤一族がプライベートで使うラグジュアリーホテルである。敷居が高すぎて一般誌にはお目見えしない。いわゆるセレブが使うお忍び施設。
 実はここ、瑞樹と三琴がはじめてデートした場所でもある。

 瑞樹とは極秘で交際していたから、人目の付くところへ出かけることはできない。かといって、どこにも遊びいかないというのも、残念なものがある。
 そんなわけでふたりが恋人として会うのは、外部にあまり開かれていない場所でとなる。
 交際開始は春の桜の美しい時期であったが、デルリーン・リッツ&コートヤード内であっても花見客を避けて、葉だけの紫陽花の庭に落ち着いたのだった。

 平日は上司と部下で顔を合わせているから、休日に瑞樹と会うのは変な感じがした。
 想い人とは相思相愛だった――普通なら念願かなって嬉しいところだが、いざそうなってしまって三琴は悩む。
 なんといってもお相手は御曹司で、セレブと呼ばれる人種。そんな人の隣に並ぶのだ、彼に釣り合うにはどうすればいいのか? 秘書として後ろで控えているのとはまた違う緊張感があった。
 戸惑いに不安に、さらに恥じらいも混ざって三琴は複雑な心境だった。
 
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