その涙が、やさしい雨に変わるまで
 手押しカートに小さな観葉植物が詰まった段ボールを載せて、裏口へ運んでいく。フローリストが新しい植物を持ってくるので、ここで段ボールごと交換するのだ。
 大鉢は女手では無理なのでフローリストにお任せするのだが、小さな植物は三琴と彩也子が交換後、あたらしいものをひとつずつ飾っていく。

「あと、アレンジメントはこちらで処分だから」
 カートを押しながら、切り花の処理を教えてもらう。
「もういらないってこと?」
「そういうことになっている。そのまま燃えるゴミで捨てるけど、使えそうな花はもう一度活け直して社員用トイレとかに飾ったりしているよ」
 
 用済みの花の再利用は、役員の入る高層階フロアでも行われていた。
 瑞樹がレセプション会場でブーケをもらってくると、三琴はそれをほどいて副社長室や前室に飾っていた。
 もらい物のブーケだが、いつも瑞樹はふざけて、三琴に捧げていた。さも自分が用意したかのように、こんなセリフとともに。

――姫様、どうぞお受け取りください。あなたのために、ご用意いたしました。

 主従が逆転したブーケの受け渡しであったが、副社長のジョークに三琴も乗った。お姫様になったつもりで「ありがとう」と、ちょっと偉そうにいってみせたのであった。

 何気ない彩也子のセリフに、もう瑞樹から花束をもらうことはないのだと、その花を瑞樹のために飾ることはないのだと三琴は気がついた。

「あ、殿下だ! 今日も素敵~」
「?」
 新しい観葉植物を配置しているうちに、彩也子が黄色い声をあげた。
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