その涙が、やさしい雨に変わるまで
 ***

 定時で退勤した三琴は受付嬢の制服から私服へ着替えて、脩也との待ち合わせ場所へ向かった。

 その約束先は、居酒屋『四季(しき)(さい)』。三琴の勤務先から二駅ほどのところにある、カジュアル創作居酒屋である。
 先に入店していた脩也は、四人用のブース席で三琴のことを待っていた。
 先にビールでも飲んではじめているかと思いきや、彼は掘りごたつになったテーブル席でノートパソコンを開いて作業をしていた。

「すみません、かなりお待たせしてしまったようで」
「いやいや、俺がかなり早くにやってきたから、気にしなくていいよ」 

 三琴が到着すれば、脩也は「もう少し、いいかな?」と断って、切りのいいところまで作業を進める。
 ぶつぶつひとり言をいいながら、最後に「これで良し」という表情になって、ノートパソコンを畳んだ。
 
「先にはじめていたい陽気だったけど、我慢した。助けてくれた松田ちゃんに悪いしね。松田ちゃんも、ビールでいい?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「いえいえ、お礼をいうのはこちらのほう。あそこで松田ちゃんが現れなかったら、俺、完全に不審者だったから」
 キンキンに冷えたビールがやってきて、再会を乾杯する。瑞樹の兄、脩也との夕飯がはじまった。


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