その涙が、やさしい雨に変わるまで
 受付カウンターで揉めたときの脩也の風貌はラフもラフ、彩也子が不審がっても無理はない。
 いまだって目の前にいる脩也の服装は、黒のスタッフジャンパーを脱いでトレッキングブランドメーカーの半袖Tシャツだ。同ブランドのカーゴパンツに包まれた足を、掘りごたつのテーブルの下で軽く組んでいる。
 このブース席につく際には靴を脱いで浅い階段を上らなくてはならないのだが、その階段前には、これまた大きなトレッキングブーツがあった。

 ちなみに、脩也のマスクは花粉症である。どの花粉に反応しているのかは、本人はわからないという。羽田空港に降り立った途端、鼻がムズムズして急遽マスクを買ったとのことだった。
 それを証明するかのように、脩也は空気清浄機に一番近い席を陣取っている。今はマスクを外して、フライト直後を物語る無精ひげの顔で三琴の前にいる。

 こんな脩也、まさに山男。
 こんな出で立ちで上場会社のグランドフロアへ、しかもマスクをしてアポイントメントなしでやってくれば、門前払いは当然のことである。

 しかし、これでも脩也、粗野な振る舞いをしてはいるものの、常識のない人間ではない。
 風貌こそ山男で口調もチャラ男だが、彼はれっきとした副社長瑞樹の実兄である。

 脩也が実兄であるのはいいのだが、実は、少々訳ありの実兄でもあった。
 こんなことを三琴が知っているのは、瑞樹と結婚を前提でお付き合いしていたからである。

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