その涙が、やさしい雨に変わるまで
(あ、あ、あーーー、失敗しちゃった)
(結婚の前に、転落事故のことをいうべきだった!)
(ここの親子喧嘩、もう勘弁してよ。この様子だと結婚どころか事故のことも知らないかも……)
一番そうなってほしくない方向へ話が逸れて、三琴は悩む。
勘違いしている脩也のほうは、花婿の兄の感動そのままに、つらつらと持論を展開する。三琴にとって傷を抉るだけの行為であるとは知らずに。
「あ、じゃあ、あれか? 瑞樹と結婚した松田ちゃんが秘書のままだと、周りがちょっとやりにくいよな。それで受付にいたんだ。納得、納得」
正確には、一度は瑞樹のそばで秘書業を全うしようと決意したが、美沙希の影がちらついて、やめた。いざ退職願を出したものの、すぐに受理されず、社の都合で受付カウンターへ異動させられただけである。
「電話がつながらなかったのも、納得。あれは、社用電話だったからね」
正確には、あのスマートフォンは本多へ譲渡した。あれは、第一秘書が持つものだから。ただし脩也の番号を着信拒否に設定し直して。
本多に脩也のことはいえない。もちろん、秘密のまま引継ぎをした。
瑞樹だって記憶をなくしたままだから、三琴と脩也が直通電話でつながっていることを知らないはず。
こんな状況で脩也から秘書用のスマートフォンへコンタクトが入れば、副社長室に混乱が生じる。さらにそこから追究がはじまったりなんかしたら、瑞樹と三琴のことがおおっぴらになる。
終わったこととはいえ、過去の恋愛で美沙希に迷惑をかけるわけにはいかない。記憶をなくした瑞樹にだって、おなじこと。
副社長室前室から去る直前の直前に、そのことに三琴は気がついて、大急ぎで脩也のナンバーを着信拒否に設定したのだった。
(結婚の前に、転落事故のことをいうべきだった!)
(ここの親子喧嘩、もう勘弁してよ。この様子だと結婚どころか事故のことも知らないかも……)
一番そうなってほしくない方向へ話が逸れて、三琴は悩む。
勘違いしている脩也のほうは、花婿の兄の感動そのままに、つらつらと持論を展開する。三琴にとって傷を抉るだけの行為であるとは知らずに。
「あ、じゃあ、あれか? 瑞樹と結婚した松田ちゃんが秘書のままだと、周りがちょっとやりにくいよな。それで受付にいたんだ。納得、納得」
正確には、一度は瑞樹のそばで秘書業を全うしようと決意したが、美沙希の影がちらついて、やめた。いざ退職願を出したものの、すぐに受理されず、社の都合で受付カウンターへ異動させられただけである。
「電話がつながらなかったのも、納得。あれは、社用電話だったからね」
正確には、あのスマートフォンは本多へ譲渡した。あれは、第一秘書が持つものだから。ただし脩也の番号を着信拒否に設定し直して。
本多に脩也のことはいえない。もちろん、秘密のまま引継ぎをした。
瑞樹だって記憶をなくしたままだから、三琴と脩也が直通電話でつながっていることを知らないはず。
こんな状況で脩也から秘書用のスマートフォンへコンタクトが入れば、副社長室に混乱が生じる。さらにそこから追究がはじまったりなんかしたら、瑞樹と三琴のことがおおっぴらになる。
終わったこととはいえ、過去の恋愛で美沙希に迷惑をかけるわけにはいかない。記憶をなくした瑞樹にだって、おなじこと。
副社長室前室から去る直前の直前に、そのことに三琴は気がついて、大急ぎで脩也のナンバーを着信拒否に設定したのだった。