その涙が、やさしい雨に変わるまで
三琴が秘書から外れてもまだ一ヶ月にならない。本多への引継ぎだといえば、副社長室へ出入りできないことはない。
今回の脩也の帰国は、前回から一年以上も間が空いた。新しい企画の中身は知らないけれど、彼の言からはなんとなく次の兄弟の邂逅は数年先になるような気がする。
「それは、遠慮しておく。松田ちゃんにそこまでさせるわけにはいかない」
三琴の予想と違って、脩也は断った。
「でも、どうやって副社長と連絡を?」
「実家へいくよ。喧嘩して十年も経てば俺も変わったし、親も変わっているだろうよ」
カッカッカッと、豪快に脩也は笑う。「だからそれは心配しなくても大丈夫!」と、胸を張ってみせる。
自信満々なところも瑞樹さんと似ているな、なんてまた兄弟の類似点を三琴は見つけてしまう。
「よそんちの親子喧嘩に巻き込んじゃって、ごめんね。松田ちゃんはいい子だし、美人さんだから、受付カウンターに座っていれば、すぐに次の恋がくるさ」
あっけらかんと脩也は明るい三琴の未来を予言した。
(次の恋か……)
(記憶が戻れば……なんて期待して、ぐずぐずと一年も引きずってしまった)
(潮時といえば、潮時よね)
極秘交際であれば、相談相手などいない。ひとりで思考してもぐるぐると同じところを回るのみで、完全に足踏み状態の三琴であった。
脩也のいうことは失恋した人には無神経かもしれないが、極めて前向きで、具体的で、現実的である。
もし瑞樹と結婚できたとしたら、一番疎遠になる家族は脩也だったはず。その脩也が、失恋した三琴にいま一番寄り添ってくれている。皮肉な現実である。
「と、次の恋にいく前に、急に気持ちを切り替えるのは難しいだろうから、気分転換にアルバイトしてみない?」
タクシー乗り場の順番待ちの行列の中で、ここでも軽い感じで脩也は切り出した。
「アルバイト?」
「そう、アルバイト。一日だけの」
にっこりと笑みを浮かべて、脩也は三琴にオファーをかけたのだった。
今回の脩也の帰国は、前回から一年以上も間が空いた。新しい企画の中身は知らないけれど、彼の言からはなんとなく次の兄弟の邂逅は数年先になるような気がする。
「それは、遠慮しておく。松田ちゃんにそこまでさせるわけにはいかない」
三琴の予想と違って、脩也は断った。
「でも、どうやって副社長と連絡を?」
「実家へいくよ。喧嘩して十年も経てば俺も変わったし、親も変わっているだろうよ」
カッカッカッと、豪快に脩也は笑う。「だからそれは心配しなくても大丈夫!」と、胸を張ってみせる。
自信満々なところも瑞樹さんと似ているな、なんてまた兄弟の類似点を三琴は見つけてしまう。
「よそんちの親子喧嘩に巻き込んじゃって、ごめんね。松田ちゃんはいい子だし、美人さんだから、受付カウンターに座っていれば、すぐに次の恋がくるさ」
あっけらかんと脩也は明るい三琴の未来を予言した。
(次の恋か……)
(記憶が戻れば……なんて期待して、ぐずぐずと一年も引きずってしまった)
(潮時といえば、潮時よね)
極秘交際であれば、相談相手などいない。ひとりで思考してもぐるぐると同じところを回るのみで、完全に足踏み状態の三琴であった。
脩也のいうことは失恋した人には無神経かもしれないが、極めて前向きで、具体的で、現実的である。
もし瑞樹と結婚できたとしたら、一番疎遠になる家族は脩也だったはず。その脩也が、失恋した三琴にいま一番寄り添ってくれている。皮肉な現実である。
「と、次の恋にいく前に、急に気持ちを切り替えるのは難しいだろうから、気分転換にアルバイトしてみない?」
タクシー乗り場の順番待ちの行列の中で、ここでも軽い感じで脩也は切り出した。
「アルバイト?」
「そう、アルバイト。一日だけの」
にっこりと笑みを浮かべて、脩也は三琴にオファーをかけたのだった。