その涙が、やさしい雨に変わるまで
 三琴は、不思議なことを教えてもらったような気がする。
 一度きりの古いアナログ撮影の現場では、やり直すことができない。それは当然のことだけど、何かの本質に触れたような気がする。

『やり直しがきかなくて一瞬一瞬が勝負だから』
『いくらでも取り直し、修正し直しできるといっても、そのときそのときの集中力や判断力が必要だから』
 アナログなら当たり前のことだけど、ここに刻一刻を大事にしているフォトグラファーの姿もあった。

「だから、これ絶好って思ってもタイミングを逃していたり、あー、しくったぁ~って思っても案外よかったりするときもある。面白いよ、写真って」
 新しいフィルムを取り出して、カメラにセッティングしながら、春奈は持論を展開していく。
「この仕事を本格的にするようになって、時間を意識するようになったわ。今しか撮れない写真ってこともそうだけど、写真以外にも今しかできないことも意識するようになったの」

『写真以外にも今しかできないことも意識する』
 うっかりきき流してしまいそうになったが、今の三琴には先と同じ感覚、響くものがあってドキッとする。なまじ自分は愛する人に、真実を告げるタイミングを逃してしまったから。
 もっと自己中心的に振る舞ってもよかったのではと、瑞樹の振る舞いの後ろに美沙希の影を見つけてしまう度に、そんなことを三琴は思ってしまっていた。胸が苦しくなるばかりで、まさに、後悔先に立たず、である。

 相づちしか打たない三琴のことに機嫌を損ねることなく、春奈のほうはドンドン饒舌になっていく。饒舌であるが、ファインダーを覗くことを休みはしない。

「私ね、裕介との結婚を、すごく悩んだ時期があったの」
「はい?」
 突然、話題が恋バナに変わる。しかもその恋バナは、のろけではなさそうだ。
 どう対応していいかわからず、三琴はここでもきくに徹していた。
 
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