我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~
クロマルが心配そうに私を上目遣いで見つめる。走ったことによる疲れに対してなのか、それとも村人たちに石を投げられたことへの心配なのか……多分、どちらもだろう。
「……はぁ。なんでこうなっちゃうんだろう。せっかく生まれ変わろうと決めた場所で〝魔女〟だなんて」
「あながち間違いではないだろう。魔物使いの女、略して魔女」
「あ、兼聖女でもあったな」と、ユーインは顔色ひとつ変えず淡々と言う。
「そういえばユーインもクロマルも、石が当たって怪我をしなかった?」
ふたりは私を庇うように、逃げる時も頻繁に後ろを確認してくれていたのを思い出す。
「素人が投げた石が俺に当たるわけがない」
【僕も全部避けたよ!】
ふたり同時に返事をし、ふたりともどこかドヤ顔だ。そんな顔を見ていると、自然と笑顔になる私がいた。ここへ来てから踏んだり蹴ったり……いいや、来る前から私の人生はほとんどいいとこなしだった。だけど、護衛選びに関しては間違いなかったみたい。
「ごめんね。私のせいで迷惑かけちゃって……」
「当たって砕けろって言ったのは俺だ。お前のせいじゃあない」
「ありがとう。……でも、せっかく集めた食料も台無しになったわ」
すべて置いて逃げてしまったせいで、食べるものがない。今からまた採りに行こうと思っても、もう陽が落ちかけている。これ以上ふたりを巻き込んで、疲労を与えたくはない。……ここはふたりだけを洞穴に帰して、私ひとりでもう一度食料探しに行くべきだ。ユーインがクロマルを襲わないよう、クロマルは別の場所で待機してもらってもいいし。夜は魔物が活動的になるというが、私にとっては関係ないもの。それにしても――。
「私、追放先でも追放させられそうになっているなんて……情けない。私の居場所って、この世界にあるのかしら」
妹やオスカー様が現状を聞いたら、きっとひっくり返って大爆笑しているだろう。
「……あ、心の中で言おうとしたことが、つい声に出ちゃってたわ。ごめん。忘れて」
早々に弱音を吐いてしまった口を慌てて塞いで、私は苦笑する。
「さっきまでの威勢が消えるには、時間が早すぎやしないか?」
「……正論すぎてなにも言い返せないわ」
「……アナスタシア。この世界に居場所がないと感じてるのは、きっとここにいる誰もが同じだ。だからお前が作るんだろう。この村を、居場所にするんだろう。俺はそう聞いていたが?」
「ユーイン……」
相変わらず口調も態度も冷めているが、これって――慰めてくれている? というより、私を奮い立たせようと?
「あなたって、実はちょっぴりいい人? さっきまで私がやろうとしてること、鼻で笑っていたのに」
「俺が憎んでいるのは魔物だけだ。人間には優しさくらい見せる。それにこれくらいでへこたれるなんて、俺からしたら張り合いがなくてつまらないからな」
ストレートに疑問を聞くと、ユーインはぶっきらぼうに答えて目線を逸らす。この発言に、クロマルはまた若干怯えた姿勢を見せてはいたが……思ったよりも、ユーインは怖い人ではないのかも。
「うん。ふたりのおかげで元気出たわ。ありがとう。……よし! 私は今からみんなの食料を探しに行くから、ふたりは先に――」
「今からまた探すのはたいへんだろう。……もういい。遅かれ早かれこうなると思っていたし、ついてこい」
私が立ち上がると、ユーインが遮ってそう言った。
「……?」
【……?】
私とクロマルはふたりで顔を見合わせて首を傾げると、黙ってユーインの後を付いて行った。
「……はぁ。なんでこうなっちゃうんだろう。せっかく生まれ変わろうと決めた場所で〝魔女〟だなんて」
「あながち間違いではないだろう。魔物使いの女、略して魔女」
「あ、兼聖女でもあったな」と、ユーインは顔色ひとつ変えず淡々と言う。
「そういえばユーインもクロマルも、石が当たって怪我をしなかった?」
ふたりは私を庇うように、逃げる時も頻繁に後ろを確認してくれていたのを思い出す。
「素人が投げた石が俺に当たるわけがない」
【僕も全部避けたよ!】
ふたり同時に返事をし、ふたりともどこかドヤ顔だ。そんな顔を見ていると、自然と笑顔になる私がいた。ここへ来てから踏んだり蹴ったり……いいや、来る前から私の人生はほとんどいいとこなしだった。だけど、護衛選びに関しては間違いなかったみたい。
「ごめんね。私のせいで迷惑かけちゃって……」
「当たって砕けろって言ったのは俺だ。お前のせいじゃあない」
「ありがとう。……でも、せっかく集めた食料も台無しになったわ」
すべて置いて逃げてしまったせいで、食べるものがない。今からまた採りに行こうと思っても、もう陽が落ちかけている。これ以上ふたりを巻き込んで、疲労を与えたくはない。……ここはふたりだけを洞穴に帰して、私ひとりでもう一度食料探しに行くべきだ。ユーインがクロマルを襲わないよう、クロマルは別の場所で待機してもらってもいいし。夜は魔物が活動的になるというが、私にとっては関係ないもの。それにしても――。
「私、追放先でも追放させられそうになっているなんて……情けない。私の居場所って、この世界にあるのかしら」
妹やオスカー様が現状を聞いたら、きっとひっくり返って大爆笑しているだろう。
「……あ、心の中で言おうとしたことが、つい声に出ちゃってたわ。ごめん。忘れて」
早々に弱音を吐いてしまった口を慌てて塞いで、私は苦笑する。
「さっきまでの威勢が消えるには、時間が早すぎやしないか?」
「……正論すぎてなにも言い返せないわ」
「……アナスタシア。この世界に居場所がないと感じてるのは、きっとここにいる誰もが同じだ。だからお前が作るんだろう。この村を、居場所にするんだろう。俺はそう聞いていたが?」
「ユーイン……」
相変わらず口調も態度も冷めているが、これって――慰めてくれている? というより、私を奮い立たせようと?
「あなたって、実はちょっぴりいい人? さっきまで私がやろうとしてること、鼻で笑っていたのに」
「俺が憎んでいるのは魔物だけだ。人間には優しさくらい見せる。それにこれくらいでへこたれるなんて、俺からしたら張り合いがなくてつまらないからな」
ストレートに疑問を聞くと、ユーインはぶっきらぼうに答えて目線を逸らす。この発言に、クロマルはまた若干怯えた姿勢を見せてはいたが……思ったよりも、ユーインは怖い人ではないのかも。
「うん。ふたりのおかげで元気出たわ。ありがとう。……よし! 私は今からみんなの食料を探しに行くから、ふたりは先に――」
「今からまた探すのはたいへんだろう。……もういい。遅かれ早かれこうなると思っていたし、ついてこい」
私が立ち上がると、ユーインが遮ってそう言った。
「……?」
【……?】
私とクロマルはふたりで顔を見合わせて首を傾げると、黙ってユーインの後を付いて行った。