我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~
「それは全部、帰りながら説明します。一緒に村に帰りましょう。お母様が心配されていましたよ。ギーさん」
「……! 俺の母親に会ったのか?」
「ええ。ジェシカと一緒に薬を届けに。安心してください。変なことはしていませんから」
 にっこり笑いかけると、ギーさんはバツが悪そうに一度視線を逸らしたものの、私の手を取って立ち上がってくれた。

** *

 ユーインとクロマルも連れて村へ戻ると、家の前でジェシカとロラさんが待ってくれていた。
「母さん!?」
 その姿を見て、すぐさまギーさんがロラさんの元へ駆け寄る。
「無事だったのね。よかった」
「ああ、俺は無事だけど……それより外に出て大丈夫なのか? 最近じゃあ立ち上がるのもつらいって……」
「そう。それがねぇ、今日はとても調子がいいの。聖女様が回復させてくれたから、ジェシカちゃんの薬の効きがいいのかもしれないわ」
 ロラさんの両肩に手を置いて、心配そうに身体を労わるギーさんだったが、ロラさんは元気そうだ。さっきよりも顔色がよくなっている。
「アナスタシア……聖女ってのも本当だったのか」
 私は無言で頷く。
ギーさんにか帰り道、私が聖女兼魔物使いであることを話していた。ギーさんは半信半疑のようだったが、ロラさんの話を聞いてやっと信じてくれたようだ。
「聖女だって⁉ 村に聖女が来たのか⁉」
 騒ぎを聞きつけたのか、いつの間にか私たちの周りには村人が集まって来ていた。ざっと見るだけでも二十人近くいる。
「なんだ。本当にこんなに住人がいたんだな」
 私がひそかに心の中で思っていたことを、ユーインがあっけらかんと口にした。
「ギー、ジェシカ、本当なの?」
 村人のひとりが問いただすと、ふたりは顔を見合わせて静かに頷いた。
「だって、この女は魔女だって言ってたじゃないか。現に今だって魔物を連れてる」
「それなのに聖女ってどういうこと?」
 一気に周囲がざわつき始める。ちょうどいい機会だ。ここで一気に説明してしまおう。私という、ややこしい能力を持った人間について。……前世の記憶があることは、関係ないから黙っておこう。よけい変な子だと思われちゃう。
「改めまして、終末の村の皆様に自己紹介いたします。私、アナスタシアと申します」
 自己紹介から始まり、私は自分が聖女と魔物使いの二足の草鞋を履いていることを伝える。ここへ来た理由は、お決まりの〝婚約者と妹に冤罪をかけられた〟だけ言って。誰も私の婚約者がオスカー様だとは夢にも思わないだろうが、ややこしくなるから知られないままでいい。それにここにいる人たちは、こんな場所を作って放置している王家をきっと恨んでいるはずだ。
「俺はとある任務を請け負ったただの下級騎士だ。わけあってこいつの護衛をしている」
 一通り説明したあとに、ユーインも付け加えるように簡単すぎる自己紹介をした。クロマルのことは私が軽く説明しておいたが、みんな大人しい魔物になんともいえない視線を送っている。怖いような、よく見るとかわいいような……そんな感じの視線。
「私、ここに来たことで生まれ変わろうって決めたんです。もちろんいい方向に。だから魔物と人間が仲良く暮らす楽しい村づくりをしようと思っています。皆様もぜひ、力を貸してください!」
 ――やっと言えた。私の目的を。
 ひとりで感動しつつ、どんな反応が返ってくるのかを期待してみる……が、びっくりするほどしーんとした空気が続いている。
「……そんなの無理に決まってる。ひとりでやってくれよ」
 誰かがそう言うと、同調するように次々と村人が反論し始めた。
「こんな場所をいまさら楽しい村だって? あんたはわかっていない。終末の村は国がいらなくなったものを捨てるゴミ箱みたいなもんだ」
 悔しそうな顔が並ぶ。それぞれに、ここへ来ることになった複雑な背景があるのは重々承知だ。絶望し、現実に立ち向かう気力も失せるだろう。しかし、もうここはこれまでの終末の村ではない。なぜなら、私が変えると――ここから第二の人生を歩むと決めたから。
「だったら、私たちでそのゴミ箱を楽園にしてしまえばいいじゃありませんこと!」
 重苦しい空気を一刀両断するように、声高々に言い放つ。ああ、吹き抜ける冷たい風が気持ちいい。
「な、なに言ってんだこいつ」
 村人たちは、もはや私をただの変人だと思い始めている。視界の隅っこでは、ユーインが俯いて肩を震わせている様子が映った。
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