我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~
「ふざけるな!」
突如、空を切るような怒声が響き渡る。声の主はギーさんだった。顔を真っ赤にして、感情を昂らせているように見える。
「そりゃあお前はいいさ! その特別な力を得たままここへきたんだからな。俺は一年前……ここで魔物に襲われて、大事な右腕を負傷した。そのせいで……」
ギーさんは右腕を押さえて言葉を詰まらせた。最初は怒りに満ちていた声色も、次第と涙交じりになっていったのがわかる。――ギーさんは魔物に受けた傷により、大事にしていたなにかを失ったのだろうか。
私は無言でギーさんに近づくと、茶色い染みがこびり付いたシャツの右腕部分を捲った。そこには痛々しい大きな縦一直線の傷跡があった。
「……これのせいで、右腕をまともに上げることもできない」
「そう。一年経った今でも痛むのですね。ギーさんは……よく耐え抜いたと思います」
私はその傷に手をかざし、聖女の光を発動する。
「いくら聖女でも、一年も経った傷は――っ⁉」
ギーさんの言う通り、年月が経てば経つほど傷を治すのは難しくなる。できることなら、傷を受けたら早急に聖女のもとへ行くのがいちばんの得策だ。
「治った……? そんな……こんな古傷を治せる聖女は、かなり上級クラス……」
「アナスタシア様は、あの大聖女アリシア様の血を引いているんです」
「ジェ、ジェシカ……!」
ここでは色眼鏡なしで見られたかったから、それは内緒にしてほしかったのに。
「……そんな聖女が追放される? 国はなにを血迷ったんだ? それとも、お前は相当なことをやらかしたのか?」
「いいえ。ただひとつ言えるのは、王都の人々は本当の私をなにも知らないということだけです」
ずいぶん遠回しな言い方になったが、わかる人にはわかるだろう。
「ギーさん。あなたはまた、この右腕が使える。……ここにいるほかの人も、ずっと使ってないものがあったりするのでは?」
微かに瞳が揺れた人が数名いたのを、私は見逃さなかった。
「さてと。明日から私は勝手に魔物たちと村づくりを始めますが、気が向いたら手伝ってください! 今後魔物は絶対に村人を襲いませんので、ご心配なく!」
これ以上、今の私が伝えられることはない。私は取り囲む村人の隙間を抜けて、ユーインの家があるほうへ歩き出した。ロラさんだけが、にこやかに私に手を振ってくれていた。
突如、空を切るような怒声が響き渡る。声の主はギーさんだった。顔を真っ赤にして、感情を昂らせているように見える。
「そりゃあお前はいいさ! その特別な力を得たままここへきたんだからな。俺は一年前……ここで魔物に襲われて、大事な右腕を負傷した。そのせいで……」
ギーさんは右腕を押さえて言葉を詰まらせた。最初は怒りに満ちていた声色も、次第と涙交じりになっていったのがわかる。――ギーさんは魔物に受けた傷により、大事にしていたなにかを失ったのだろうか。
私は無言でギーさんに近づくと、茶色い染みがこびり付いたシャツの右腕部分を捲った。そこには痛々しい大きな縦一直線の傷跡があった。
「……これのせいで、右腕をまともに上げることもできない」
「そう。一年経った今でも痛むのですね。ギーさんは……よく耐え抜いたと思います」
私はその傷に手をかざし、聖女の光を発動する。
「いくら聖女でも、一年も経った傷は――っ⁉」
ギーさんの言う通り、年月が経てば経つほど傷を治すのは難しくなる。できることなら、傷を受けたら早急に聖女のもとへ行くのがいちばんの得策だ。
「治った……? そんな……こんな古傷を治せる聖女は、かなり上級クラス……」
「アナスタシア様は、あの大聖女アリシア様の血を引いているんです」
「ジェ、ジェシカ……!」
ここでは色眼鏡なしで見られたかったから、それは内緒にしてほしかったのに。
「……そんな聖女が追放される? 国はなにを血迷ったんだ? それとも、お前は相当なことをやらかしたのか?」
「いいえ。ただひとつ言えるのは、王都の人々は本当の私をなにも知らないということだけです」
ずいぶん遠回しな言い方になったが、わかる人にはわかるだろう。
「ギーさん。あなたはまた、この右腕が使える。……ここにいるほかの人も、ずっと使ってないものがあったりするのでは?」
微かに瞳が揺れた人が数名いたのを、私は見逃さなかった。
「さてと。明日から私は勝手に魔物たちと村づくりを始めますが、気が向いたら手伝ってください! 今後魔物は絶対に村人を襲いませんので、ご心配なく!」
これ以上、今の私が伝えられることはない。私は取り囲む村人の隙間を抜けて、ユーインの家があるほうへ歩き出した。ロラさんだけが、にこやかに私に手を振ってくれていた。