我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~
「クロマル起きて。それと、今日はジェシカの護衛についてくれる? 薬草がありそうなところを案内してあげて」
【! 仕事だね。わかった!】
 仕事を与えた瞬間クロマルは覚醒し、ぴょんっとジェシカの近くに飛び降りる。
「ありがとうございますアナスタシア様! えっと、クロマルくんであってるかしら。よろしくお願いします」
 ぎこちなくクロマルに挨拶をすると、ジェシカはそのままクロマルと一緒に森へ歩んでいく。
 ――さてと。私も働かないとね。
「ギーさん、この村にほかに大工はいる? できたら壊れた建物を順番に修理していきたいんだけど……」
「いいや。力仕事をできる男は数名いるけど、補佐をさせるには足りないな。全部直すとなると、いつになるやら……」
「じゃあ私が補佐になる魔物を探して連れてくるわ!」
 物を持たせるから、人型の魔物がいいわよね。オークやオーガがいれば役に立ってくれるかも。魔法使いがいれば土魔法でゴーレムを造ってもらったりできそうだ。この村にいたら頼んでみよう。
 こうして、私はまず人型魔物探しを開始した。東の森方面にはいなかったから、反対はどうだろう。そう思い村の端まで根気よく歩き続けていると――ビンゴ。私は二体のオーク、一体のオーガ、帰り道に会った三体のゴブリンも手伝ってくれるというので、合計六体の魔物を連れてギーさんの家まで戻った。
「彼の仕事を手伝ってくれる? 物凄い大工さんなの」
 私が言うと、魔物は嫌がる素振りもせず揃って頷く。
「やっぱりまだ慣れないな。この光景……」
 ギーさんは魔物と人間が仲良くやっている姿に、未だ慣れていないらしい。だけどこれからは仕事仲間だ。一緒に仕事をしていれば、自然と親交も深まるだろう。
「そ、それじゃあ、木材を集めてきてほしいんだが。いちばん力のあるやつは残って俺の補佐を頼む」
 魔物たちはギーさんの言うことを聞いて、各々仕事に出かけた。残ったオーガとぎこちなく会話をするギーさんをしばらく見守って、私は新しい仕事を探しに行くことにした。
 この村はとにかく魔物や災害によって荒れ果てた場所が多い。二十人以上の人が住んでいるのに、大きな畑がひとつもないのが気になる。さっき荒れた畑が放置されているのを見かけたので、どうにかそれを復活させたいのだが――。
「アナスタシア。ここにいたか」
「きゃっ! もう、突然現れないでよユーイン」
「お前こそ突然消えるな。護衛といってお前の奇行を観察するっていう、俺の楽しみを奪われちゃあ困る」
 荒れた畑へ向かう道中立ち止まっていると、家に置いてきたユーインが背後からひょこりと現れた。……というか、護衛をしてる裏にはそんな理由が? 
「ごめん。よく寝てたから。でも早起きした甲斐あったわ。ジェシカとギーさんが村づくりのために動き出してくれたの」
「ああ、さっき見たよ。お前を見て魔女だと石を投げたやつが、今や魔物と仲良くやってる。変な光景だ。……魔物に傷つけられたってのに、あんなにあっさり協力できるなんて、俺には理解できない」
 ギーさんの家がある方を見ながら、ユーインは冷たい声でそう言った。
「でも、魔物だって人間に傷つけられてる」
「勝手に人間界を荒らしてるのは向こうだろ。傷つけられたって仕方ない」
「……そうかもしれないわ。でも、どちらかが許す気持ちを持たないとなにも変わらない。無論、ユーインみたいに変わることを望まないならば、そういう意見があって当然だとも思う。私は……あなたの気持ちを否定はできないもの」
 私だって、今後もしオスカー様やアンジェリカに謝罪をされたとしても、許せるかわからない。また仲良しようとは、今のところ二度と思えない。
 出会った頃からユーインは魔物に憎悪を抱いていた。ユーインが過去になにかあって魔物をここまで嫌うようになっていたとしたら、私はその気持ちが理解できてしまう。
「……いや、悪かった。中立の立場のお前に、文句を言っても仕方なかったな」
 私がひとり思い悩んでいると、ユーインがぽんっと私の頭の上に大きな手を乗せた。そして少し乱暴にくしゃりと髪を撫でると、手を離して歩き始める。
「それで? これからの予定はどうなってるんだ」
「え、ええっと、そう! 近くに荒れた畑があるの。そこをちゃんとした畑に戻したくてって」
 危険が伴わなくなったとはいえ、食料が尽きるたびに森へ探しに行くのは時間も労力もかかる。村人みんなで管理できる畑をいくつか作ることができたら、だいぶラクになるはずだ。
「畑って――ここか」
 数分歩いていると、荒れた畑を見つけた。
「結構大きいな。ふたりで耕すとなるとなかなかの重労働だぞ」
「そうよね。それじゃあここも魔物に――」
「却下。魔物と仕事をするなら俺はやらない」
「えぇっ⁉」
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