我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~
 クロマルは共に行動する護衛だから百歩譲っていいが、ほかの魔物はだめってこと? 私がおろおろしていると、ユーインは「そもそも護衛の仕事に畑作業は入っていない」と追い打ちをかけてきた。
「なにしてるの? アナスタシアちゃん」
 どうしようと思っていると、ちょうどいいところにひとりの村人が現れた。
 藍色の髪をした、スラッとした二十代くらいの男性で、とても明るいさわやかな笑顔をしている。こんな陽気そうな人、この村にいたんだ。私の名前を知ってるってことは、昨日ギーさんと揉めた時その場にいたってことよね?
「あ、こんにちは! 今、この畑を元に戻そうと思って……どうするのが最善か悩んでいたんです」
「へぇ。楽しい村づくり、本気だったんだね」
「もちろん。よかったら協力してくれると嬉しいです。ええっと……」
「僕はロビン。ここへ追放されて二年半。よろしく」
 友好的に私に握手を求めてきたこの男性は、ロビンさんというようだ。細身の体型からしてあまり力仕事が得意そうではないが、ロビンさんも手伝ってくれるなら、ユーインと合わせて三人。そうなると、今日で作業を終えられる道筋が見えてきた。
「僕がなにを手伝えば、君は嬉しいのかな?」
「ひとまず畑の土を耕して、形を整えるところから始めようかと。だからぜひ、そのお手伝いをロビンさんに……」
「なるほど。わかったよ」
 ロビンさんはふたつ返事で快く引き受けてくれた。
「私、道具を借りて――」
「アナスタシアちゃん。その必要はないから、ちょっと離れててくれる? ……そこの護衛の君もね」
「えっ……?」
 私とユーインにウインクを飛ばして言うロビンさん。そんなロビンさんを見て、ユーインはあからさまに嫌そうな顔をする。……私の勝手な考えだけど、このふたり、相性があんまりよくない気がするような……。
「うん。準備オッケー! 始めるよーっ!」
 言われた通り畑から離れると、ロビンさんは畑の前でこちらに向かって手を振りながら叫ぶ。始めるって、いったいなにを?
 すると、ロビンさんが両手を前に出した。その両掌に操られるように、荒れた畑の土がみるみると姿を変えていく。呆気に取られながらその光景を見ていると、いつの間にかぐちゃぐちゃで干からびていた土は、耕したてほやほやの土になっていた。
「ねぇ、畑を復活するなら、種とかは準備してるの?」
「へっ? は、はい。少しですけど……」
「それじゃあ、一旦それも僕に渡してくれるかい?」
 ユーインの家で使った果物の種や、さっき魔物に協力してもらって集めた野菜の種をロビンさんに渡す。ロビンさんはまた手を動かして、種を浮かせて均等に幅をとって土に埋めたかと思うと、今度は畑に水を降らした。
「……すごいわ! まるで魔法みたい!」
「どう見ても魔法だろ。あの男は魔法使い。しかも、中級以上の」
 冷静にユーインにつっこまれて、やっとロビンさんが魔法使いだと理解した。薬師のジェシカ、大工のギーさんに続いて――中級レベル以上の魔法使いまでいるなんて。実は終末の村は、かなりの逸材ぞろいなのではなかろうか。
「素晴らしいわロビンさん! 一瞬で終わらせちゃうなんて!」
「本当? 僕ってすごい? かっこいい?」
「ええとっても! こんな魔法、間近で初めて見ましたもの。私の周りには聖女しかいなかったから」
 あらゆる魔力を扱える魔法使いを前に、私は尊敬の眼差しを送る。聖女は結界を張ったり傷を癒したり回復したりといった魔法に特化しているが、こうやって自然のものを操ったりすることはできない。あんな魔法が使えたら、爽快感がすごそうだ。私が魔法使いなら、オスカー様に最後に一発水鉄砲でもお見舞いしてあげられたのに残念だ。
「はぁ……こんなに綺麗な女の子に褒めてもらえるなんて、僕も最高の気分だよ! 僕、ここへ来てから可愛い子に巡り合えなくて退屈で退屈で。塞ぎこんでたら魔力が落ちて魔法の使い方も忘れかけちゃっててさ」
 ロビンさんは、昨日私の姿を見て話を聞いた直後から、全身に魔力が漲ってきたという。そしてまた、魔法使いとしての自分を取り戻せたと言う。
「それはよかったです。でも、どうして私を見たら戻ったんでしょう?」
「そんなの、アナスタシアちゃんが可愛いからだよ! 僕は可愛い女の子が大好きだからね。可愛い子がいないと、すべてのやる気をなくしてしまうんだ」
「ふふっ。なんですかそれ。まさかここへ来たのは、気が多くていろんな女性に恨まれてたからだったりして」
「……」
 ロビンさんは無言で張り付けたような笑顔を見せた。冗談のつもりだったが、まさか図星……? これ以上はなにも言わないでおこう。
 その後ロビンさんと話をつけて、あの畑はロビンさんが管理してくれることになった。まだまだ種が足りないので、ユーインと一緒に種や苗を探しに行くと、気づけば空の色が変わっていた。ギーさんの作業もひと段落つき、ジェシカとクロマルもすっかり仲良くなって戻ってきたため、今日の作業は終了した。
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