我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~
 ――それから、次第に終末の村は変わり始めた。
 日が経つにつれて、どんどん協力してくれる村人が増えたのだ。嬉しい変化はそれだけでなく、魔物たちも進んで村に顔を出し、作業を手伝ってくれるようになった。ギーさんとと人型魔物たちなんかは今ではいいチームになっており、ロビンさんに頼んでゴーレムを生み出してもらったことで、建物の修復は物凄い速さで進んでいった。
 ジェシカも毎日のように薬の調合をしており、ジェシカの薬と聖女の私もいるおかげで、身体の具合が悪かった村人や魔物はみんな大事にならずに済んだ。
終末の村は、これまでにない活気に包まれている――と、私は勝手に思っている。

「ねぇジェシカ、新しい薬の開発はどう?」
 私がここへ来て三か月ほど経った。村づくりはいい感じに進んでおり、私は久しぶりにジェシカの家兼研究所を訪ね、進行具合を聞いた。クロマルとユーインにはほかの仕事の手伝いを任せているため、今日はひとりでの訪問だ。
「もともと調合方法を知っていた薬の量産はうまくいってるんですが、新しい薬は……」
 ジェシカはキッチンに並んでいる試作品の瓶を見つめて、肩を落としため息を漏らす。この調子だと、うまくいっていないのかしら。
ついでに出会って三か月経っても、ジェシカは変わらず私を〝アナスタシア様〟と呼び、敬語み抜けていない。誰に対しても敬語を使っているので、これは距離が縮まっていないとかではなく、ジェシカの癖なんだと私はポジティブに捉えることにした。
「でも、ジェシカの薬すごいじゃない! ギーさんが言ってたわ。ロラさんの具合がかなり回復しているって」
 そう、ジェシカが薬作りに精力を注ぐようになってから、ずっと体調不良で寝たきりだったロラさんが、今では毎日外を散歩できるまでになったのだ。私も定期的に聖女の力で身体を回復させてはいるが、病気がよくなっているのは間違いなくジェシカの薬の効果だと思う。
「おばさまは生まれつき肺が弱くて、歳を重ねるにつれてどんどん悪化していたみたいなんです。でもここで万能薬にもなりうる薬草を見つけて、いつもの薬にそれを混ぜたら、おばさまにはよく効いたんです」
「ええ。それって、新しい薬が成功したっていってもいいじゃない」
「うーん……私的にそれじゃあ納得できなくて」
 ジェシカは一から新たに薬を作り出したいようだ。ジェシカなりの、薬師としてのこだわりだろうか。
「その試作品はなにが足りないの? ……見た目は若干、おどろおどろしいけど」
 私はキッチンに置いてある瓶を指さす。中に入っている液体は真っ黒で、薬と言われても飲むのには勇気を要しそうだ。どちらかといえば薬というより毒薬にも見える。
「これがこの村の森で見つけた、万能薬ともいえる薬草から作ったポーションです! 見てください。この草、色が真っ黒なんですよ」
 ジェシカがテンション高めに薬草の説明をしてくれた。ギザギザした形の真っ黒な葉は、やはりとても薬草とは思えない。
「私も植物図鑑でしか見たことなかったんですが、これは魔物の好物だから手を出すなって書かれていたんです。瘴気の濃い森にだけ生える草みたいで……」
「へぇ。それなら、この村には当然生えているでしょうね。……それより、手を出すなとあったのに持って帰ったの?」
「はい。だって、長時間私と一緒に森を探索して疲れ果てたクロマルくんが、この葉を食べたら一瞬で回復したんです。魔物の身体をここまで回復させられるなら、人間にも効果があるんじゃないかと思って。そうしたら予想通り! これは薬草の仲間に違いありません」
 魔物と人間の身体のつくりを比較したことがないためその理屈はよくわからないが、試してみたら結果オーライだったということだろうか。
「それにしたって、どうやってその黒い草が人間にも効くとわかったの?」
 もし毒だったら、とんでもない騒ぎになっていただろうに。
「自分で飲んで異常がないことを確認しました。図鑑にも毒とは表示されていませんでしたから。……本当はアナスタシア様に協力してロビンさんに飲ませようと思ったんですけど、なんとか良心が勝ちました」
 さらっと恐ろしい発言をするジェシカ。思っているより何倍も、彼女は肝が据わっていることに三か月目にして気づいたと同時に、ジェシカにとってロビンさんの立ち位置はなんなのだろうと疑問に思ったりした。
「そんな万能薬で作ったポーションなら、それだけで満足いく仕上がりになりそうなのに」
「効能は文句なしにいいんです! ただ……色がどうしても気に入らなくて!」
「……い、いろ?」
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