念願の婚約破棄された悪役令嬢は、なぜか廃嫡寸前の変人王子に執着される
こほんと小さく咳払いをした王子の、空気が変わる。
花束を持ち直し、彼は私の前に跪いた。

「シャローラ、愛している。
俺と結婚してくれ」

王子が私へ、真っ赤な薔薇の花束を差し出してくる。
眼鏡の奥からは情熱的に燃える、夜のような濃紺の瞳が私を見ていた。
その真摯な態度に、知らず知らず喉がごくりと唾を飲み込む。

「わ、私は」

コーデリック王子はあの人とは違うんだろうか。
あの人のように別の女性――妹と関係を持ち、気づかない私を陰で笑ったりしないだろうか。
真剣に私を見つめる王子の目を見ていたら、そんな期待が持ち上がってくる。
おそるおそる、震える手を前に伸ばしたけれど。

……ううん、男はみんな一緒。
あの人だって私にプロポーズしたとき、同じ顔をしていたじゃないか。
騙されちゃ、ダメ。

伸ばしかけた手をぎゅっと硬く握り、胸に抱き寄せる。

「シャローラ?」

それまで期待に満ちていた王子の顔が、あっという間に失望へと変わっていく。

「あなたが私の夫にふさわしいとでも思っていらっしゃるの?
私の夫には王以外、認めませんわ」

私は王子の心を踏みにじっている。
わかっているだけにいくら必要な演技でも、心が痛い。

「……そうか」

「きゃっ!」

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