私、修道女になりたいのですが。。。 ー 悪役令嬢のささやかな野望?
 嫌がらせもそんな私をじわじわと苦しめる。
 いつ死ぬかもしれないと怯え……、それでもひとりで耐えてきたけれど、もう限界。
 自分だけが傷つくならまだいい。
 でも、自分のせいで彼が怪我をするなんて嫌だ。
 だって私は……アレックス様が好き。
 彼が私の推しだったからではない。
 ひとりの男性として好きなのだ。
 アレックス様はなにも言わず、しばらく私の背中を撫でてくれた。
 少し落ち着いてくると、顔を上げてアレックス様を見つめる。
 私に向けられる曇りのないそのエメラルド色の目はとても温かい。
 この人になら話してもいいって思った。
「アレックス様……私、本当のマリアではありません。異世界から来ました」
 突飛な話だったのに、彼は表情を変えずに「それで?」と先を促す。
「前にいた世界では貴族ではなく庶民で、ある日事故に遭ったんですが、目覚めたらこの世界にいて、この姿になっていて……。だから、私はあなたの婚約者のマリアではないんです。ずっと隠していて……本当に……本当にすみませんでした」
 自分の正体を告げ、彼によって婚約破棄をされ、その後斬首刑にされることも、それを回避するために家出を計画していたこともすべて打ち明けた。
「なるほどね。お前の説明でいろいろ腑に落ちた。ずっとひとりで耐えてきて苦しかったな」
 アレックス様に優しい言葉をかけられ、また涙がポロポロ溢れ落ちる。
「お願いです。婚約破棄してください。私が異世界から来たことを話せば、国王夫妻も納得してくださるはず……!」
 アレックス様が突然私の唇に指を当てる。
「前にも言ったが婚約破棄はしない。忘れたか? 俺が口づけを交わしたのはお前だ」
 私の心に刻むようにアレックス様はとても甘い声でゆっくりと言う。
「アレックス……様」
「お前が好きだ。だから、悪いが離してはやらない」
 これほど嬉しい愛の言葉はない。
「私も……アレックス様のことが好きです」
 思い切って私も自分の思いを伝えると、極上の笑顔を見せる。
「ずっと俺のそばにいろ。これは命令だ」
彼と一緒にいられたらどんなにいいだろう。
「ですが……私は異世界人で……」
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