私、修道女になりたいのですが。。。 ー 悪役令嬢のささやかな野望?
腰で踏ん張れず、体勢を立て直せない。
 身体ずるずる落ちていって、手綱を持つ手が緩んだ。
 落ちる……落ちちゃう!
 キースが追ってきてなにか叫んでいるけど、もうパニックになっていて聞こえない。
 手が痛い。もう……ダメ――。
 手綱から手が離れた瞬間、背後から誰かが馬で並走してきて、落馬しそうになったところを抱きかかえられた。
 心臓がバクバク。ジェットコースターに乗っているような感覚で目がくらくらする。
 気づけばいつの間にか馬から降ろされ、地面の上に座らされた。
 助かった……。
 胸に手を当て、ゼーッと大きく息を吐く。
 今度こそ死ぬかと思った。運動神経に関しては……中村真理のままなのかもしれない。
 と、とりあえず助けてくれた人にお礼を言わなくちゃ。
 馬を撫ででいる背の高い青年に声をかける。
 後ろ姿だけど、着ている外套やその佇まいから察するに、相当身分の高い貴族だろう。
「ど、どなたか知りませんが、助けてくださってありがとうございました」
 ホント、タイミングよく現れてくれて私は運がよかった。
 なにかお礼をしよう……と考えていたら、その青年が私の方を向いた。
 艶のある漆黒の髪にエメラルドの宝石のような緑の瞳。それに非の打ち所のない彫刻の ような綺麗な顔。
 彼は……アレックス皇太子。私の婚約者――。
その左手の薬指には、世継ぎの印であるエメラルドの指輪がキラリと光っている。
婚約者にどなたか知りませんが……なんて言うなんて、失言だった。
サーッと青ざめる私とは対照的に、彼はどこか観察するような目で私を見ている。
「記憶喪失とは聞いていたが、俺のことも忘れたようだな」
 恐らく公爵が私の怪我の様子をアレックス様に話したのだろう。その言葉を聞いて少し安堵する。
 そのエメラルド色の瞳はしっかりと私を見据えている。
 あまりに美しくて、オーラもすごくて声が出ない。
 目も……心もこの人に奪われる。
 この人は本当に王になるために生まれてきた人だ。
「マリア様〜!」
 キースとグレースが走ってこちらにやってくる。
 その姿を確認すると、アレックス様は馬に跨り、私に再び視線を向けた。
「死にたくなければ、当分馬には乗らないことだ」
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