私、修道女になりたいのですが。。。 ー 悪役令嬢のささやかな野望?
「で、ですが、私は記憶を一部なくしています。将来の国母としては相応しくないかと」
 狼狽えながらも必死に反論するが、一蹴された。
「大病を患っているのでなければ問題ない。くだらないことは考えず、今は静養しろ」
 チ~ンと頭の中でおりんが鳴る。
 ――私の人生詰んだ。
 ひとり放心していたら、アレックス様が淡々とした口調で告げる。
「他に話がないなら、俺は教室に行く」
 彼のその声で我に返った。
 ……教室。
 学校に来たんだもの。教室に行くのは当然だわ。でも、私の教室はどこ?
「アレックス様! すみません。私の教室はどこでしょう?」
 生徒会室を出ていこうとするアレックス様の腕を慌てて掴んだら、ハーッと盛大な溜め息をつかれた。
「あの……すみません。アレックス様しか頼れる人がいないのです」
 他の人は私の事情を知らない。
 それに私が話しかけるとみんな怯えるのだ。
 縋るような目でアレックス様を見ていると、また彼に手を掴まれた。
「お前は私と同じクラスで、席は私の隣だ」
ああ。そうか。そういえば、マリアとアレックス様は同い年だったっけ。
 私の手を引きながら、アレックス様は今度はゆっくり歩く。恐らく私に合わせてくれているのだろう。
 だが、却って目立ってしまい、周囲の生徒たちの視線を集めた。
 もうなんというか居たたまれない。できれば目立ちたくないのですが……。
 この視線に耐えられるアレックス様ってやっぱりすごい。
 彼が席に案内してくれると、頭をペコリと下げて礼を言う。
「アレックス様、ありがとうございました」
「ああ」と返事をして、彼は私の隣の席に着く。ちなみに彼の後ろの席はルーカス様で、なにか楽しげにアレックス様の背中をツンツン突いていた。
 しばらくすると先生がやって来て授業を始めたが、肝心の教科書がない。
 グレースが用意してくれていたのに、今日持ってきたバッグに入っているのはペンだけ。
 なぜ教科書が消えたのだろう?
 さすがにアレックス様に見せて……なんて図々しいことは言えない。
 取り敢えず授業だけは真面目に聞こうと、先生の話に熱心に耳を傾けていたら、アレックス様の溜め息が微かに聞こえた。
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