元伯爵令嬢は乙女ゲームに参戦しました
さて、それでは早速ですが作戦会議と参りましょう。
アドバイザー役の下弦さん曰く、せっかく脳筋三日月さんが審判だということなので、蝶湖様への対策よりもそちらを優先した方がいいとのことでしたが……
「そんなこっすい手なんか使わなくったって正々堂々と勝負するわよ」
「無理無理無理。まともにやりあえば絶対に敵いっこないから」
有朋さんが鼻息高く言い切りますと、下弦さんがふんわりとした愛嬌のある顔に、辛辣な言葉で対抗します。
先ほどからこのような攻防が続き、一向に話が進みません。
確かに有朋さんの言うことは潔いのですけれども、あの蝶湖様相手に正攻法一辺倒ではおそらく全然歯が立たないかと思います。
蝶湖様の一挙手一投足は、どこをとっても完璧なお嬢様です。おそらく私の前世の世界でも全く問題はありません。
この今世であれだけの徹底された立ち振る舞いをするには、よほどお小さい時からの躾があったのでしょう。
そして、蝶湖様はそれだけでなく、勉強に、スポーツに、芸術にと、全てにおいて突出した才能を開花させているそうです。
下弦さんの言うように、まともに勝負にいっては、まあ勝つことは無理でしょう。
「あのさー、何をムキになってるのか知らないけど、君、勝ちたいんじゃないの?」
何度目かの応酬に、呆れたように問いただします。
「そんなの、勝ちたいに決まってるじゃん! だけど……だって、ゲーム。ゲームの中じゃ……」
ゲーム? 下弦さんが不思議そうに首を傾げます。
ああ、彼女の中ではあの乙女ゲームが希望であり制約でもあるんですね。なんとなくですが行動原理が理解できるような気がします。
ゲームになぞって、ゲーム通りに行動し、ゲームのように幸せになりたいと。それはそれで、その乙女ゲームを知る有朋さんには幸せな結末なのだと思います。
けれども今ここに居る私や下弦さん、他の皆さん、それ以上に蝶湖様のように勝手に舞台に乗せられた方はたまったものではありません。
なんだかふつふつとした怒りが、胸に、頭に、湧いてきました。前世でも、今世でも、私にとって初めての感情です。
バシッ!
前世での扇の代わりにと、人差し指と中指を重ね、机を叩けばそれなりの音が響きました。
まさか私がそのような行動に出るとはおもわなかったのでしょう。呆気にとられたような二人の顔がこちらを向きました。
「有朋さん、下弦さんの意見に従いましょう」
「え、や……急にどうしたの、あんた?」
「あなたがおっしゃるお嬢様対決で、蝶湖さん相手に本気で勝ちたいのなら、卑屈な作戦でも狡猾な戦術でも、使うべきです」
「いや……卑屈とか狡猾って、え、僕の作戦ってそこまでひどい?」
二人とも私の態度の急変に驚き口ごもりましたが、
知ったことではありません。
「蝶湖様がお嬢様の中のお嬢様であるのは、ひとえに全て蝶湖様の努力の賜物でしょう。それはたゆまぬ精進と不断の勉励によるものです。」
私も知り合ってまだ短い日々ですが、あの立ち振る舞いは一朝一夕で成るようなものでないのはわかります。前世での高位貴族の方々よりも気品があります。正直な話、王族クラスと言ってもいいのかもしれません。
「有朋さんもそれなりに努力を重ねてきたようですが、はっきりいって足元にも及んでいません。それを、あなたはゲーム、ゲームと……言っておきますが、現実はゲームのようにやり直しは効かないのですよ」
「…………はい」
「そうやって蝶湖様や私を、無理矢理この対決に担ぎ出したのですから、せめて真摯に、且つ貪欲に向き合いなさい」
勝つ努力をしますよ、わかりましたか!? それが、お相手してくださる蝶湖様に応えることになるでしょう。
コクコクと頷く有朋さんを見て、息を落ち着かせます。
一息に言い切ったせいで、若干胸が苦しくなってしまいました。でも、ほんの少しスッキリした気分です。そんな私を見て、下弦さんがなんだか感心したように呟きました。
「湖……蝶湖が君のこと気に入ったのもわかる気がする」
「え?」
「なんでもないよ。さ、方針がまとまったんだから、さっさと決めようよ。狡猾で卑屈なヤツ?だっけ」
「そうですね、では何の勝負にいたしましょうか?」
こうして私は、初めて自分の意志で乙女ゲームに参戦することにいたしました。
アドバイザー役の下弦さん曰く、せっかく脳筋三日月さんが審判だということなので、蝶湖様への対策よりもそちらを優先した方がいいとのことでしたが……
「そんなこっすい手なんか使わなくったって正々堂々と勝負するわよ」
「無理無理無理。まともにやりあえば絶対に敵いっこないから」
有朋さんが鼻息高く言い切りますと、下弦さんがふんわりとした愛嬌のある顔に、辛辣な言葉で対抗します。
先ほどからこのような攻防が続き、一向に話が進みません。
確かに有朋さんの言うことは潔いのですけれども、あの蝶湖様相手に正攻法一辺倒ではおそらく全然歯が立たないかと思います。
蝶湖様の一挙手一投足は、どこをとっても完璧なお嬢様です。おそらく私の前世の世界でも全く問題はありません。
この今世であれだけの徹底された立ち振る舞いをするには、よほどお小さい時からの躾があったのでしょう。
そして、蝶湖様はそれだけでなく、勉強に、スポーツに、芸術にと、全てにおいて突出した才能を開花させているそうです。
下弦さんの言うように、まともに勝負にいっては、まあ勝つことは無理でしょう。
「あのさー、何をムキになってるのか知らないけど、君、勝ちたいんじゃないの?」
何度目かの応酬に、呆れたように問いただします。
「そんなの、勝ちたいに決まってるじゃん! だけど……だって、ゲーム。ゲームの中じゃ……」
ゲーム? 下弦さんが不思議そうに首を傾げます。
ああ、彼女の中ではあの乙女ゲームが希望であり制約でもあるんですね。なんとなくですが行動原理が理解できるような気がします。
ゲームになぞって、ゲーム通りに行動し、ゲームのように幸せになりたいと。それはそれで、その乙女ゲームを知る有朋さんには幸せな結末なのだと思います。
けれども今ここに居る私や下弦さん、他の皆さん、それ以上に蝶湖様のように勝手に舞台に乗せられた方はたまったものではありません。
なんだかふつふつとした怒りが、胸に、頭に、湧いてきました。前世でも、今世でも、私にとって初めての感情です。
バシッ!
前世での扇の代わりにと、人差し指と中指を重ね、机を叩けばそれなりの音が響きました。
まさか私がそのような行動に出るとはおもわなかったのでしょう。呆気にとられたような二人の顔がこちらを向きました。
「有朋さん、下弦さんの意見に従いましょう」
「え、や……急にどうしたの、あんた?」
「あなたがおっしゃるお嬢様対決で、蝶湖さん相手に本気で勝ちたいのなら、卑屈な作戦でも狡猾な戦術でも、使うべきです」
「いや……卑屈とか狡猾って、え、僕の作戦ってそこまでひどい?」
二人とも私の態度の急変に驚き口ごもりましたが、
知ったことではありません。
「蝶湖様がお嬢様の中のお嬢様であるのは、ひとえに全て蝶湖様の努力の賜物でしょう。それはたゆまぬ精進と不断の勉励によるものです。」
私も知り合ってまだ短い日々ですが、あの立ち振る舞いは一朝一夕で成るようなものでないのはわかります。前世での高位貴族の方々よりも気品があります。正直な話、王族クラスと言ってもいいのかもしれません。
「有朋さんもそれなりに努力を重ねてきたようですが、はっきりいって足元にも及んでいません。それを、あなたはゲーム、ゲームと……言っておきますが、現実はゲームのようにやり直しは効かないのですよ」
「…………はい」
「そうやって蝶湖様や私を、無理矢理この対決に担ぎ出したのですから、せめて真摯に、且つ貪欲に向き合いなさい」
勝つ努力をしますよ、わかりましたか!? それが、お相手してくださる蝶湖様に応えることになるでしょう。
コクコクと頷く有朋さんを見て、息を落ち着かせます。
一息に言い切ったせいで、若干胸が苦しくなってしまいました。でも、ほんの少しスッキリした気分です。そんな私を見て、下弦さんがなんだか感心したように呟きました。
「湖……蝶湖が君のこと気に入ったのもわかる気がする」
「え?」
「なんでもないよ。さ、方針がまとまったんだから、さっさと決めようよ。狡猾で卑屈なヤツ?だっけ」
「そうですね、では何の勝負にいたしましょうか?」
こうして私は、初めて自分の意志で乙女ゲームに参戦することにいたしました。