来世なんていらない
二階までエレベーターで下りて、一階までは階段を使った。
エレベーターは小高クリニックの傍に停まる。
お父さんに見つかったらたまらない。
階段は反対側だから、一階まで下って、一気に外まで走った。

二人で手を繋いで、繁華街を駆け抜けた。
一人で走ってきた時よりも体が軽かった。

死んでないのに羽根が生えたみたいな気分だった。

いつもの河原まで来て、真翔は家と屋上の鍵からチャームを外して、川に投げた。

「環境破壊」

「ごめんなさい」

「いいの?お守りにしたほうが良かったんじゃない?」

「お守りにはならない。過去に縛り付けられる。でも償いはちゃんとする。俺が変わることで、ちゃんと前を向くことで。父さんを見返すことで。ついてきてくれますか」

「もちろんです」

「ありがとう」

「どういたしまして」

家の前まで送ってもらって、バイバイする前にスマホを見たら、武田さんと橋本くんから大量にメッセージが入っていた。

「スマホ見て」

「え」

真翔も同じ現象だった。

二人で顔を見合わせて苦笑い。

ついでに私は学校を抜け出してサボッてるわけだし。

「反省文何枚だろ…」

「んー、怖いねぇ」

「なんで真翔が他人事なのよ!」

「あはははは」



後日、武田さんも橋本くんもカンカンに怒っていて、担任の説教もいつもの数倍長かった。
本当のことは二人とも言わなかった。

「なんか燃え尽き症候群になってたらまつりを勘違いさせちゃって」っておどけてみせた。

武田さんが「今度やったらコロス」って言った。

「俺、来世ある?」

「はぁ?何言ってんの?きっしょい!」

私も真翔もいっぱい笑った。

来世なんて無くていい。
だから今を必死で生きることが出来る。

真翔が今を選んで良かったって思える日が来るまで、一緒にもがきたい。
みんなと一緒に。
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