別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
「それが、戻ってくるらしい。今回は御父上のサポートに入ると聞いているよ。まあ、ちょっと気まずいこともあったが、5年も前の事だ。君らが旧知の仲だということは変わらないから、かえってやりやすいかもしれない」

 日比野加奈は日比野楽器の現社長の娘で、今はヨーロッパで活動するフルート奏者だ。同じ高校の後輩なので面識もある。

「そうですね。承知しました」

 ひとしきり仕事の話を終えると貴久はソファーに深く腰掛けなおし、口調を崩す。

「和輝は最近うちに帰ってこないとお祖母さんが拗ねていたぞ」

 息抜きという名の本題が始まったようだ。

 たしかに未来と暮らし始めてから、和輝は一度も猪瀬の本宅に戻っていない。
 祖母の様子はこうして父に聞いているし、定期的に使用人の井部に電話して確認している。

 それに未来が言っていたように祖母が自分に見合いをさせようとしているなら、顔を合わせない方がいいだ
ろう。祖母に変に食い下がられると面倒だ。

(見合いか。正直、祖母さんがそんなこと考えるとは思えないんだがな)

「お陰様で忙しいんですよ。なんせ面倒な案件をどんどん振ってくる社長の下で働いていますから」
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