さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
 手を洗い、リビングに戻ってくるとテーブルに置いていたスマートフォンが着信し振動した。

「和くんかな?」
 
 画面を見た未来は表示された相手に驚き、すぐに手に取り通話ボタンをタップした。

――それから15分後
 
 ドアが開く音に未来は慌てて玄関に向かう。

「和くん!」

「ただいま、未来。今日はずいぶん熱烈歓迎だな」

 駆け寄った未来を和輝は当たり前のように抱きしめた。

「お帰りなさい……って、ちがう、和くん! どうしよう。さっきお父さんが明日こっちに来るから少し会えないかって電話があったの」

「明日?」

 和輝の胸を両手で押し、少し体を離して見上げると彼は驚いた顔をした。

「11時には東京駅に着くらしくて、とりあえず八重洲北口で待ち合わせすることにしたんだけど」

「それはまた急だな。ひとりでくるのか?」

「うん。ひとりだって。こちらに戻ってくる準備だと思うんだけど、私のアパートにも来るつもりみたいで」

 父には引っ越しをやめたことを伝えただけで、ここで和輝と同居していることは伝えていない。

 焦る未来に対して和輝は落ち着いていた。

「まあ俺は別に君がここで俺と暮らしていると知られても構わないんだが」
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