雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

「凛子さん、こんにちは。ご無沙汰いたしております」

栗林専務の奥様が声を掛けるも、「こんにちは」と挨拶を返すと、すぐに宮川さんの視線は私に向けられた。

「こちら、榊雪野さん――榊創介さんの奥様なんですが、お着物をお召しになっていらっしゃらなくて。本日の会合の趣旨がお着物ですからね。どうしたものかと……」

栗林専務の奥様が、はっきりとした口調で何度も”榊創介さんの奥様”と言うたび、私はいたたまれない気持ちになる。   

心底困り果てたような表情で栗林専務の奥様が話しているのを、ただじっと耐えるように俯いて聞いていることしかできない。

宮川凛子さんの前で、私は、一体どんな顔をしていればいいと言うのだろう。

それも、こんな状況で――。

「創介さんの……」

しっとりとした声で呟くように声を零す。

創介さんの婚約者だった方が私を見て、どう思われるだろう――。

考える前に逃げ出したい衝動にかられた。

「榊さん、大丈夫ですよ。そのままのお召し物で参加されても構いません。でも、せっかくですから、着物お召しになりませんか? 一着くらい、すぐ準備できますから」

私の肩に優しく手のひらが添えられて、そして安心させるような柔らかな微笑みを浮かべて宮川さんがそう言った。

「あの、でも――」
「一体、何事ですか?」

宮川さんを見上げた時、遠くから違う声が飛び込んできた。

「――お母さん、なんでもありませんから、講演のご準備をなさってください」

そう、咄嗟に答えると私に耳打ちした。

”私の母に見つかる前に、行きましょう”

そう言って私の腕を引いた。私は何の返事も出来ないまま、その腕に引かれる方へと付いて行った。

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