雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
細かな模様がいくつもほどこされた綺麗な着物と帯を見ながら、その背中を追う。
「――ミサさん? 家から私の着物一着持って来てもらえるかしら。そうね――」
そう携帯電話で話しながら、私をちらりと見て、また会話を始めた。
「薄い桃色の着物がいいわ。そう、大きな花柄の。申し訳ないけれど、なるべく早くお願いね。私が取ってあるホテルの部屋、分かるわよね? そう、その部屋にお願い」
電話を切ると、私をそのまま上階の部屋へと連れて行った。
「あ、あの、私――」
ホテルの部屋の一室に入り、二人きりになる。
なんと挨拶をすればよいのか分からない。
一度、あの川べりで話をしたことがある。あの時、私は咄嗟に榊家の使用人をしていた人間だと嘘を言ってしまっている。
「ごめんなさいね。強引に連れて来てしまって。私の母が出て来ると、また、ちょっと面倒なことになりそうだったから……」
そう言って息を整えると、宮川さんが私の方へと身体を向けた。
「私、宮川凛子と申します。初めまして――ではないと思うのだけれど、榊さんは覚えていらっしゃる?」
「は、はい。あの時は、本当に、申し訳ございませんでした」
とにかく頭を下げるしかない。
「謝ることなんてないです。だから、顔を上げてください」
恐る恐る身体を起こし、宮川さんと向き合った。
「今日は、大変でしたね」
華やかな着物を着たその姿は、本当にきらきらと輝いている。そして、人を包み込むような優しさがその表情に滲み出ていた。
「いえ。それより、お着物貸していただくなんて申し訳ないです。それに、もう会が始まってしまいます。私のことはお気になさらずに、会場にいらしてください」
その事実に気付く。もう会が始まってしまう。それなのに、私に付き合っていたら大幅に遅れてしまう。
「大丈夫ですよ。会の最初はどうせ、うちの母の講演ですから」
「それなら、尚更――」
宮川史子さんというのは、凛子さんのお母様だったのだ。
「うちの母の話、とっても長いんです。講演が終わるまでには戻れますよ。私、着付けには慣れているのですぐに終えられます。このホテルから私の家、目と鼻の先なの。ホテルで借りるより早いと思って私のをお貸しすることにしたの。だから、お気になさらないで」
ふふ、と微笑む宮川さんの笑顔に、胸の奥が軋む。
「皆さんがびっくりするくらい綺麗に変身して戻りましょう」
私を慰めるように見つめてくれる。自然と頷いていた。