雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
それからすぐに、宮川さんの家の方が着物を届けてくれた。
その後、宮川さんは、本当にほんの15分くらいで着付けてしまった。
「とっても可愛らしい。この着物にして良かった。榊さんによく似合ってる」
鏡に映る私に、宮川さんが微笑みかける。
「本当に、今日は助けていただいてありがとうございました。なんと、お礼を言ったらいいか」
ただただ何度も頭を下げる。
優しい言葉も、温かな心遣いも、涙が出るほどありがたかった。
そして、苦しいほどに切なかった。
「お礼なんて、そんなこといいんです。さあ、会場に早く戻りましょう」
この人は、困っている私を見てただ助けたいと思った。どんな相手にも自然と手を差し伸べる、本当に心優しい人なのだろう。
宮川さんの手で着付てもらった着物姿で、会場に戻る。壇上で、宮川さんのお母様が講演をしているところだった。
「もう、この中にいても変に目立ったりせずに済むと思いますよ」
私に小声で囁くと、笑顔で去って行こうとした。慌ててそれを引き留める。
「今日は、本当にありがとうございました。本当に……」
もう一度お礼が言いたくて、頭を下げた。
「どういたしまして」
笑顔のまま少し会釈をして、宮川さんは集まる人たちの中へと消えて行った。
その背中が完全に消えるまで見つめていると、会場に拍手が沸き上がる。
「宮川史子様、素晴らしいお話をありがとうございました。我が国のファーストレディーとなられる方にこうしてお話をいただけて、我々も大変貴重な機会を与えていただきました。会場の皆さま、もう一度盛大な拍手をお願いいたします」
司会の声が大きなシャンデリアがきらめく会場に響き渡った。