雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

 講演が終わると、あとは和やかな立食パーティーとなった。

 特に知り合いのいない私は、人目に付かないようにと会場の片隅に身を寄せた。

 会が始まる前に嫌というほど目に付いてしまったのだ。もう、これ以上人目に触れたくはない。

そもそも、宮川凛子さんのお母様の講演会なら、私の立場で来るべきではなかったのではないか。その事実に思い至る。

 自分が着ている着物を改めて見つめる。着物には詳しくないけれど、素人が見ても分かるほどに美しい着物だった。

飲み物をトレーに載せて会場を歩いているウエイターが私にシャンパンをくれた。それを口にしながら、視線の置き場がなくて結局俯く。

「――それにしても、宮川さん。堂々となさっていたわね。それにお嬢さんの凛子さん。本当に素敵な女性になられたわ。着物の着こなしもさすがだし、たしなみも家柄も申し分ない。この先縁談も、選び放題じゃない?」

私の背後で、どなたかがそんな会話をひそひそと始めた。ここが会場の片隅だからかもしれない。私はより身体をすくめる。

「そう考えると、榊家もどうしてあんなに勿体ないことしたのかしら。凛子さん、お綺麗だし聡明だし。今、いろんな支援団体の名誉理事をなさったり、恵まれない方たちの支援活動をされているっていうじゃない。お心も本当に素敵な方なのよ」

本当に宮川凛子さんは素敵な方だった。初めて会った時にも、それは感じていた。でも、こうして直に接してよりそれを実感している。

 あんなに素敵な方だ。会う人会う人皆が”どうして凛子さんじゃないんだ”って言いたい気持ちが、嫌というほどに理解できてしまう。

神原さんも、栗林専務の奥様も、竹中常務の奥様も、ユリさんも、この会場にいる人も。そして私自身も……。

どうして、創介さんは――。

「――こんにちは。ご無沙汰しています」
「あら、栗林さん。こちらこそ、ご無沙汰してます」

私の背後で会話をしていた二人組に、栗林専務の奥様が加わったのに気付く。

 
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