雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
もうこれ以上、気付かれたくない――考える前にそう思って、その場からそっと立ち去ろうとした時。
「――あら、雪野さん。そんな隅にいらっしゃらないで、雪野さんもこちらにいらして」
そんな私の願いなんて吹き飛ばすように、背中に栗林専務の奥様の声が突き刺さる。
「えっ……、榊さんの?」
今の今まで会話をしていたご婦人たちの気まずそうな声色に、私は思わず目を閉じた。
「榊創介さんの奥様の雪野さん。先日、丸菱の幹部婦人の集まりに、初めて参加してくださったのよ」
ご婦人たちに私の紹介を始めてしまった。これで、私はもう逃げられない。
「――初めまして、榊雪野と申します」
歪んでしまいそうな表情に懸命に笑みを作り、会釈する。私の挨拶に、ご婦人たちが複雑な表情を浮かべて「初めまして」と言葉を返した。
「雪野さん、お着物よくお似合いになってるわ。とっても可愛らしい。凛子さんがご準備してくださったんでしょう?」
栗林専務の奥様がにこやかな笑みを浮かべて私に言葉を掛ける。
「……はい。本当に、ご迷惑をおかけしてしまって」
どうしたって、もうその顔を見ていられない。俯いたまま奥様に言葉を返す。
「あら、そうなの? 凛子さんのお見立て?」
事情を知らないご婦人方が興味を持ったように、栗林専務の奥様に問い掛けた。
「そうなのよ。お着物を着ていらっしゃらなかった雪野さんのために、すぐさまご準備してくださって。本当にお優しい方よね。それに、着付けも完璧ね」
「そうだったの……。とっても素敵ですよ」
「あ、ありがとうございます……」
本当にありがたいこと。感謝してもしきれない――。
「凛子さんだわ。凛子さん!」
栗林専務の奥様が、甲高い声を発した。