雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「凛子さん、今日も、とっても素敵なお着物ですわ」
栗林専務の奥様が、にこやかに親しみを込めてちょうど通りかかった宮川さんを引き留めていた。
「ありがとうございます」
おしとやかに会釈するその姿は、どこから見ても気品あふれた佇まいだ。
「着慣れている方はやっぱり違うわね。立ち姿がとっても美しいわ」
「本当にねぇ」
栗林専務の奥様とご婦人方が、溜息をつくように声を漏らしていた。
宮川さんから発せられるその輝くようなオーラは、今の私には眩しすぎて直視出来ない。
「――それに。お着物を着慣れていない方をここまで素敵に変身させられるなんて素晴らしいわ。雪野さん、お着物、お持ちじゃないんじゃないんでしょう?」
そこで私に向けられた栗林専務の奥様の視線が、どこまでも私を委縮させる。
栗林専務の奥様の問いには答えずに、宮川さんに身体を向けた。
「本当に、先ほどはありがとうございました」
さっきから頭を下げることしか出来ない自分が、惨めでたまらなくて。そして何より、そんな風に思う自分が一番恥ずかしい。この場にいる自分のすべてが、恥ずかしくてたまらない。
こうして宮川さんの隣に立って、ここにいる人たちがどういう目で私を見ているのか。
どんなことを思っているのか。そんなことばかり考えて、どんどん卑屈になっていく。
「私は何も。榊さんが可愛らしい方だから、着物も映えるんですよ。それに、着物なんていかに着る機会があるかではありませんか? 私はただ着る機会があるから慣れているだけです。榊さんだって、これから着て行くたびに馴染んで行きますよ。今でも十分素敵に着ているんだもの、これからもっと素敵に着こなせると思います」
宮川凛子さんに、ここにいる人たち皆が見入っている。私だってその綺麗な声が紡ぐ言葉に聞き入っていた。
「では、失礼いたします」
丁寧に会釈をすると、宮川さんはその場を立ち去った。