雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「とっても榊さんにお似合いだから、着てもらえたら嬉しい」
「こんな高価なもの、いただくわけには――」
宮川さんはちらりと周囲を見渡してから、慌てふためく私を会場から連れ出した。
人けのないロビーの片隅まで私を連れて行くと、宮川さんが私に向き直った。
「――今はまだ難しいけれど、もっとたくさんの時間が経っていろんなわだかまりがなくなった時、お友達になってくれませんか?」
「え……っ?」
私の手を握りしめた宮川さんが言った言葉の意味を理解できなくて、私はただ宮川さんを見上げた。
私の手に触れた宮川さんの手のひらは、柔らかくて温かかくて。
「だから、その時まで、その着物を預かってもらうっていうのはどうかしら?」
多分。どんなに笑顔でいようと思っても、この会場にいた時の私の表情は心細そうに強張っていたに違いない。宮川さんはそんな私に気付いていた。
だから――。
宮川さんの声が私の心に染み渡っていく。
「宮川、さん……」
張り詰めていた気持ちのせいで、こらえていたものが溢れ出してしまいそうになる。掠れてしまう声を誤魔化すことが出来なくなる。
「本当は、あなたにお友だちになってなんて言うのはおかしいかもしれない。それに、あなたに対して何も感じないかと言えば嘘になる。でも、あなたを見ていると、そんな余計なこと忘れちゃうっていうか、それよりお話してみたいなって気持ちの方が大きくなった」
不思議よね――と、宮川さんが微笑む。
「あなたは素敵な人なんだろうなって、感じるからだと思うの」
「私は、そんな……」
喉に何かが詰まって言葉にならない。
だから、ただ頭を横に振るだけだ。
私は、宮川さんにそんな風に思ってもらえる人間じゃない。今だって、宮川さんを見ているのが苦しくてたまらないのだ。
そんな私は素敵な人なんかじゃない――。
「――雪野さん」
そう、名前で呼びかけて。
俯く私の手のひらを包み込んでいた宮川さんの手のひらに、力が込められた。
「負けないで。あなたには、負けてほしくないから」
優しいけれど、宮川さんの気持ちが込められている。そんな強い眼差しだった。
「ありがとうございます……っ」
その眼差しを見たら、堪えに堪えていた涙が零れ落ちてしまった。