雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

 あと少しで十二月だ。陽が落ちるのが早くなった。家にたどり着いたときには、部屋の中は中途半端な薄暗さに満ちていた。

 玄関で草履を脱ぎ、鞄をその場に落とすと、そのまま寝室へと向かう。

 帯を解き、着物と長襦袢を脱ぎ、ハンガーにかけた。宮川さんの着物を見つめて、その袖に触れる。

あの人をそのまま表したような、温かくて綺麗な薄桃色の着物――。

触れていた手を着物から離し、ベッドに身体を投げ出す。身体が鉛のように重くて、深く深くマットレスに沈み込んで行く。

 一人で寝るには広すぎるベッド。そのことが余計に寂しさを連れて来るのに、微かに創介さんの気配を感じる気がして。横たわる掛け布団を握り締めて顔を埋める。そして、ベッドの上で身体を丸めた。

 自然と零れ落ちて行く涙がシーツを濡らして、次第にシミが広がって行く。

 カーテンをしめていない窓からは、気付くと月が見えた。明かりをつけていない部屋に、その月明かりだけが灯りををくれる。ただ窓の向こうの夜空を見つめた。

 どうしてこんなにも心が揺さぶられているんだろう。その答えを突き詰めてしまえば、自分に失望してしまいそうで怖い。

 優しい宮川さんの微笑みが、目を閉じても浮かんでくる。

私は、少なからずあの人を苦しめたはずの存在で。それなのに、あんな風に優しく接してくれた人。

初めて、宮川さんを目にしたあの日、お父様の秘書をされている倉内さんが言っていた。

――決してただの政略結婚ではありません。あんなにいい人はなかなかいませんよ。

苦しくて、どこまでも堕ちて行きそうになる。

これまで懸命に自分を支えて来たものを、一気に手放してしまいそうで。

あの会場で向けられた視線も、栗林専務の奥様から浴びせられた言葉も。そして、自分のこの目で見て実感したことも。何もかも。

そのすべてに、簡単に負けてしまいそうになる。

 ベッドに横たわったまま、目を閉じた。
 何もかもを遮断するように、泣いたりする自分を認めないように、漏れる声を押し殺す。


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